「シリアから逃れたパレスチナ難民」のみを入国拒否するヨルダン政府、ヒューマン・ライツ・ウォッチが批判

ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)はこのほど、「シリアから逃れたパレスチナ難民」を差別的に入国拒否・強制送還しているヨルダン政府の対応を非難する報告書「歓迎しません:シリアを逃れたパレスチナ難民に対するヨルダン政府の処遇」を発表した。シリア紛争の難民でも、シリア人かパレスチナ人かによってヨルダン政府から受ける処遇は雲泥の差がある。

ヨルダン政府は2012年半ば以降、シリアからヨルダンに入国しようとするパレスチナ人を国境で追い返している。13年1月には「入国拒否の方針」を公表。12年半ばから現在までに100人以上をシリアに送還させた。こうした事態を懸念してHRWは「ヨルダン政府は直ちに、シリアから逃れたパレスチナ難民への規制を撤廃し、強制送還をやめるべき」と訴える。

ヨルダン政府は、11年にシリア紛争が勃発して以来、少なくとも60万7000人の「シリア人の難民」を受け入れてきた。ところが「シリアから来たパレスチナ人」に対しては厳格。14年7月までに1万4000人以上がヨルダンのパレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に支援を求めたが、ヨルダンに入国できたのはわずか1300人(入国拒否方針の前)だった。

紛争前のシリアには52万人のパレスチナ人が暮らしていた。だが難民となったシリアのパレスチナ人を受け入れるのは、隣国ではトルコのみ。八方塞がりになっているため数千人が行き場を失っているといわれる。

HRWのナディム・フーリー中東局長代理は「パレスチナ人の深刻な窮状についてはどこも見て見ぬふり。シリア難民のニーズへの対応が、すでにかなりの負担になっているためだ。しかしシリア国内での暴力から逃れた難民は、シリア人であれ、パレスチナ人であれ、入国拒否や本人の意思に反した送還の対象になってはならない」と指摘する。

パレスチナ人のみを入国拒否する理由について、ヨルダン元首相で、王立裁判所長官のファーイズ・アッ=タラーウィナ氏は13年5月、HRWのインタビューに対して「シリアから大量のパレスチナ難民が流入すれば、国内の人口バランスが変わり、不安定さが増す」と説明する。

ヨルダンは人口の半数以上がパレスチナ出身者だ。「パレスチナ人を難民として受け入れると、シリア紛争の終結後、国をもたない集団であるパレスチナ人を合法的に送還することが困難になる、とヨルダン政府は考えているのではないか」とファーイズ・アッ=タラーウィナ氏は付け加えたという。

HRWが問題視するのは、こうした悲惨な状況があるにもかかわらず、ドナー(援助)国と国際機関は、パレスチナ人が直面する人道上の懸念に十分に対処していないことだ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が議長を務める、ヨルダンのシリア難民に対応する援助機関の現地調整メカニズム「関係機関タスクフォース」(IATF)では、シリアから来たパレスチナ人の問題は議論すらされていない。またシリア危機への援助も不十分。UNHCRヨルダン事務所が確保済みの 14年度の資金は目標額10億ドル(1000億円)の36%しかない。

HRWのこの報告書は、ヨルダン政府の入国拒否政策の被害にあった30人以上へのインタビューに基づいて作成された。(堤環作)