アラブの春から3年、チュニジアが前政権の実情を調査する委員会設置へ

「アラブの春」のさきがけとなったチュニジアで、民主化に成功したアラブ諸国で初めて「移行期正義法」に基づく「真実と尊厳委員会」が設置されることになった。チュニジア政府が、自ら倒した前政権の非人道的行為をいかに裁き、その被害者に対してどのように補償していくのか、その行方に国民の注目と期待が集まっている。

チュニジアでは、2011年の民主化革命が起きるまで、ベン・アリ前政権(1987~2011年)による長期独裁体制が敷かれており、反政府勢力に対しては、拷問、投獄、監禁などの行為によって抑圧を行ってきた。政治犯として逮捕された人たちは革命後に釈放されているが、新政権は前政権時代に甚大な人権侵害を受けた人々に対する補償を行なうことが、喫緊の課題とされている。

権威主義(独裁)体制から民主主義体制への移行過程において、前政権の人権侵害などへの対応とその過程は「移行期正義」と呼ばれる。チュニジアは2011年よりその移行期正義の問題を扱い、前政権の被害者への聴取などを行ってきた。

チュニジアでは2011年10月、革命後初の議会選挙を経て、民主化運動を経験したアラブ諸国では初となる人権と移行期正義担当省が設置された。その後、2012年11月には市民団体の代表10名、官僚2名らにより起草された「移行期正義法案」が内閣・国会に提出され、2013年12月にチュニジア議会によって可決された。

移行期正義法は、前独裁政権下で人権侵害を受けた人たちの被害内容の文書化、加害者側の説明責任、被害者の名誉回復と賠償、組織改革の必要性を盛り込んでいる。被害者の中でも、とりわけ女性や子どもといった社会的弱者の保護を強調している。

また、同法に基づき、「真実と尊厳委員会」と呼ばれる独立した機関を設置することが決まった。委員会は被害者組織代表2名、人権保護団体代表2名、移行期正義の問題に詳しい専門家、判事、弁護士ら15名で構成され、活動期間は4年(最長5年)。1955年6月1日から同委員会発足日までに発生した案件を対象とし、委員は過去の全資料の閲覧や被害者の意見聴取などを通じて、前独裁政権の人権侵害の実態を究明していく。現在、その委員の選定が国会で進められているが、委員に立候補した人の中には、著名なジャーナリストや人権活動家が含まれているという。

アラブの春により民主化を達成したどの国よりも先に、前政権の人権侵害を究明し、被害者に補償しようとしているチュニジア。2013年、野党有力政治家の暗殺から与党側と野党側との対立により、今後の見通しが立たなかった政治的危機がまるで嘘だったかのように、民主化移行は順調に動き始めたように見える。(河合正貴)