キューバはなぜ超人アスリートを生むのか? スポーツ大国の光と影

岩手大学大学院に留学中のキューバ人学生リカルド・ロドリゲスさん

2020年の東京オリンピックで野球が正式種目として復活することになった。日本野球のライバルといえばキューバ。人口1000万人余りのカリブ海に浮かぶ島国は野球に限らず、バレーボールやボクシングなどの世界大会でも数々のタイトルを勝ち取ってきた。キューバではなぜ、多くの超人アスリートが誕生するのだろうか。

第一の理由はアスリートの「養成システム」にある。岩手大学大学院で学ぶキューバ人留学生のリカルド・ロドリゲスさん(32)は「スポーツ大国とキューバが世界的に呼ばれるのは、『エイデ』という国営のスポーツ養成学校があるからだ」と話す。

エイデは、キューバの全15州にひとつずつある。将来性を見込まれた13~19歳の少年少女が通う。エイデの生徒は午前中に3時間程度、専門競技の練習や筋力トレーニングをし、午後は普通の学校と同じ授業を受ける。練習は週4日。週末は試合をすることが多い。

エイデの選手育成方法は旧ソ連のやりかたを踏襲している。キューバ全土にスカウト網を張り巡らせ、才能のある子どもを12~13歳で発掘する。エイデへの入学に先立ち、およそ2週間にわたってスポーツテストを課すという。テストによって子どもがどんなスポーツに向いているのか適性を見極め、強化する競技を決めるのだ。

テストの合否を分けるのは「大人になったときに活躍できるポテンシャルをもっているかどうかだ」とロドリゲスさん。入学後も定期的にテストを実施し、選手が常に良いコンディションであるかを確認する。

第二の理由は「待遇」にある。社会主義国キューバではアスリートは国家公務員扱いだ。給料は高くない代わりに、一般の国民と比べて食料を優先的に配られたり、住宅や自動車を政府から貸与されたりと厚遇される。

オリンピックで金メダリストをとれば「国家英雄」として称賛されることも、アスリートのモチベーションを高めるようだ。一般のキューバ人からみれば、スポーツ界での成功は貧困を抜け出し、名誉を得るチャンス。アスリートは子どもの理想の職業だ。

ところが近年はキューバ人アスリートの活躍に陰りが出始めている。オリンピックのメダル獲得数をみても、1992年のバルセロナ五輪では31個(日本は22個)だったが、2016年のリオデジャネイロ五輪ではおよそ3分の1の11個(同41個)にとどまった。

その理由は、抑圧的な社会主義体制への批判だ。極端に低い報酬に不満をもち、米国などに亡命する選手が後を絶たない。キューバ出身の世界最速ピッチャー(時速169キロ。日本ハムファイターズの大谷翔平は165キロ)であるアロルディス・チャップマン投手は2009年、オランダで開催された第12回ワールドポート・トーナメントの大会期間中に欧州のアンドラに亡命。その後、メジャーリーグ入りし、現在はニューヨーク・ヤンキースでプレーしている。

チャップマン投手が亡命先にアンドラを選んだ理由はFA選手としてどこの球団とも自由に交渉できるようにするためだ。亡命先に米国やカナダ、プエルトリコを選んでしまうとドラフトの対象となる。比較的簡単に国籍を取得できるアンドラを選び、FA権を獲得するという思惑があったとされる。

キューバの首都ハバナからマイアミへは飛行機でわずか1時間。キューバ人にとって米国への亡命は珍しいことではない。キューバがスポーツ大国であり続けられるかどうかは、アスリートの育て方ではなくて、社会主義の恩恵のなかで育てたアスリートをどうつなぎとめるにかかっているといえそうだ。