「安全な水」へのアクセス改善も「衛生的なトイレ」の普及は停滞、UNICEFとWHOが懸念

国連児童基金(UNICEF)と世界保健機関(WHO)はこのほど、ミレニアム開発目標(MDGs)が定める水とトイレの分野のターゲットに向けた進ちょく状況をまとめた報告書「衛生施設と飲料水の前進:2015 ミレニアム開発目標達成度評価」を発表した。このなかで、「安全な水」へのアクセスがアップしたことで得られるはずの子どもの健康や生存率の改善が、「衛生的なトイレ」の普及停滞によって脅かされる恐れがある、と懸念した。

安全な水とは、外部からの汚染、特に排せつ物による汚染を防げる構造を備えた水源・給水設備を指す。報告書によれば、1990年から現在までに26億人が新たに安全な水へアクセスできるようになった。いまや世界人口の91%(MDGsのターゲットは88%)が安全な水を使う。とりわけサブサハラ(サハラ以南の)アフリカでは安全な水にアクセスできる人の数は1日平均4万7000人のペースで増え続けるなど、大きな成果を挙げた。

安全な水へのアクセスは、子どもの生存率を高める。2000年は1日2000人の子どもが汚れた水や不衛生な環境に起因する下痢で命を落としていた。だがその数はいま1000人以下まで減った。

だが一方で、「衛生的なトイレ」(人間の排せつ物を衛生的に処理できる設備を備えたトイレ)の普及は進んでいない。21億人が1990年以降、衛生的なトイレを使えるようになったが、この数字はMDGsのターゲットを7億人も下回る。衛生的なトイレを利用できるのは世界人口の68%(MDGsのターゲットは77%)にすぎない。衛生的なトイレを利用できない人の10人に7人が農村で暮らす。

世界ではいまだに、3人に1人に相当する24億人がトイレを利用できないという現実もある。うち9億4600万人は習慣的に屋外で排せつしている。この理由についてUNICEFは、①トイレの利用を呼びかけるキャンペーンへの投資が不十分②貧しい人でも手に入れやすい安価なトイレが足りない③屋外排せつを容認または推奨する社会通念が一部に残っている――と分析する。

適切な水やトイレへのアクセスは、トラコーマや土壌伝搬ぜん虫(腸内寄生虫)など17の「顧みられない熱帯病(NTDs)」のうち、16の予防に重要な役割を果たす。NTDsは失明などの障がいを引き起こすだけでなく、死に至らせることもある。149カ国で15億人を苦しめる。

2015年9月に開かれる国連総会では、「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択される見通しだ。SDGsは「2030年までに屋外排せつを根絶する」というターゲットを含む。達成には、南アジアやサブサハラアフリカでこれまでの2倍のペースで屋外排せつの数を減らすことが不可欠。具体策として報告書は、貧しいコミュニティに、安価で持続可能な衛生改善につながる革新的な技術やアプローチが欠かせないとみている。

UNICEF水と衛生部門のサンジャイ・ウィジェセケラ部長は「これまでのやり方は、裕福な人がまず恩恵を手にし、その後を貧しい人が追うという順序だった。だが2030年までにすべての人がトイレを使えるようにするならば、私たちはまず、貧しい人に対して改善を進めなければならない」と指摘する。