国際NGOオックスファムは9月1日、「官民連携が招くモラル・ハザード?~アフリカ農業開発における大規模官民連携事業(PPP)を考える~」と題する調査報告書を発表した。この報告書は、アフリカでトレンドとなっている「PPPの農業開発」の貧困削減効果を検証したもので、オックスファムは「投資のリスクを負うのは最も貧しい人たち。対照的に投資の利益を享受するのは少数の特権階級だ」と結論付け、“PPPブーム”に警鐘を鳴らした。
アフリカでは近年、農業部門への投資が脚光を浴びている。そのやり方は、途上国政府、援助(ドナー)国政府、多国籍企業がパートナーシップを組み、民間活力を導入して大規模で進めるのが特徴。日本政府がブラジル政府と協力し、モザンビーク北部の熱帯サバンナを一大農地に変貌させようとしている政府開発援助(ODA)プロジェクト「プロサバンナ」もそのひとつだ。
ところが、ブルキナファソ、マラウイ、タンザニアの3カ国の事例や文献などをオックスファムが調べた結果、PPPによる農業開発では、貧困層は参画の程度も低く、投資の利益を享受するのは一部の特権階級となる可能性が高いことがわかった。
オックスファムが特に問題視するのは、ODAやアフリカ各国の農業向け公共支出の使途としてPPPを優先していいのかという点。ODAや公共支出は「公的資金」だ。オックスファムは「PPPの開発効果は証明されていない。公的資金は、貧困削減効果が証明されたアプローチに回すべき」と主張する。
オックスファムは、大規模な農業開発そのものを否定するわけではないという。だが実行する際、「住民の土地への権利や、女性や労働者の権利が認められることが不可欠。そのためのガバナンス体制や法律、人権を守るための各種基準が整備・導入されなければならない」と訴える。
PPPによるアフリカ農業開発についてのオックスファムの提言は次のとおり。
1)農業分野のODAをはじめとする公的資金は、女性や小規模生産者のニーズに沿って使われるべき。小規模生産者への支援は、貧困の削減や食料安全保障の改善に寄与することが実証済み。
2)アフリカ各国、ドナー国政府は、大規模投資事業を導入する前に、住民の土地への権利を守るための政策や法律を整えるべき。
3)アフリカ各国、ドナー国政府は、アフリカの農業開発で、国内・地域市場の可能性を広げ、地域の小中企業の育成を支えるべき。市場の独占や寡占を促すような官民連携事業を支援すべきではない。
4)アフリカ各国、ドナー国政府は、どんな農業投資も、気候変動に対する農民のレジリエンス(強靭性)を高めるものとすべき。
5)大規模な官民連携事業を後押しする政府や企業は、事業の透明性、アカウンタビリティ(説明責任)、公正さについて再考すべき。
(堤環作)