【ガーナNOW!女子大生は見た(10)】これがガーナ流、水の飲み方だ!「ピュア・ウォーター」は500ミリリットル5円

半透明のプラスチック製パックに、パンパンに袋詰めされて売られているガーナの飲料水「ピュア・ウォーター」。庶民にとって大事な飲み水の供給源で、1パック500ミリリットルで約15ペセワ(約5 円)。同じ量のペットボトル入りミネラルウォーターの約7分の1の値段で売られている。

私の留学先であるガーナ大学でも、生徒の大半がこのピュア・ウォーターを飲んでいる。私を含む留学生も、最初はペットボトル入りのミネラル・ウォーターを買っていたが、その安さに負けてピュア・ウォーターを飲むようになった。今回は、多方面でガーナ社会に影響を与えているこの「ピュア・ウォーター」について紹介したい。

■庶民のための飲料水、誕生は90年代後半

ガーナの飲み水の歴史をさかのぼると、首都アクラでは1970〜80年代、飲料水は路上で量り売りされていた。水の入った大きな容器から売り子がプラスチックやメタルのカップで水をすくい、客はそのカップから直接水を飲み、一杯ごとに料金を支払っていた。カップは次の客に使い回されるため、あまり衛生的ではなかった。

そこで90年代に入ると、水は250〜500ミリリットルずつ、端を縛ったビニール袋に入れて販売されるようになった。水は市から供給されたものだったが、水を袋詰めにする作業にはやはり衛生上の問題があった。90年代後半には中国製の機械が導入され、プラスチックの袋に熱で封をする技術が可能となり、現在のパッケージの「ピュア・ウォーター」が誕生した。

■ アクラ住民の約3割が依存、しかし品質には疑問が

ガーナ政府の人口健康調査(2008年)によると、「水道水以外の水(ピュア・ウォーター、その他)」を主な飲み水とする人口は、首都アクラの位置するグレーター・アクラ州では住民の34.5%を占めた。なかでも、低所得層居住地域では、ピュア・ウォーターの消費が増加傾向にあるが、同地域では水の供給が不安定で、飲料水を確保するのが難しいためだ。ピュア・ウォーターは、途上国の貧困層(Bottom of the Economic Pyramid)を対象とした「BOPビジネス」なのだ。

だが、その品質には疑問が残る。ガーナ化学協会が実施した調査(2010年)によると、国内で製造・販売されているピュア・ウォーターの約85%が、ガーナ基準局(市場に出回る商品やサービスの質などに基準を設け、監視する政府機関)の品質水準を満たしていなかった。

調査結果を受けて、ガーナ政府はピュア・ウォーターの生産者に水準を満たすよう呼びかけてきたが、対応は進んでいない。飲料水市場には、大手メーカーの他にも小規模な生産者が無数に存在しているため、街では「USAウォーター」「グッド・ヘルス・ウォーター」など、似た名前のブランドをよく目にする。なかには、偽物の基準局認可マークがプリントされた商品も出回っている。富裕層の多くは、こうした信頼の低い類似品を避け、ペットボトル入りのミネラル・ウォーターを飲んでいる。
品質水準を満たさない飲料水製品が市場に出回る要因には、参入障壁の低さがある。マイアミ大学のジャスティン・ストーラー助教授らの調査(2012年)によると、約5000セディ(約17万円)あれば中古の製造機械の調達や基準局への登録などができてしまうという。低コストな割に利益は大きく、小規模な生産者の場合、収益は月に数千セディ(1000セディ=約3万4000円)にもなる。

■ ポイ捨てが止まらない!至る所に袋の山

街角のキオスクや路上のどこでも安価に手に入って、とても便利なピュア・ウォーター。しかし、その手軽さゆえか、歩きながら、車の窓から、空になった袋をみんな当たり前のようにポイ捨てする。これが今、深刻な問題となっている。

ガーナではゴミ収集のシステムが整備されていないため、いたるところで、地面や排水溝に捨てられたピュア・ウォーターの袋を目にする。プラスチックなので自然にかえらずに溜まってゆき、排水溝などが塞がれて雨季には洪水の原因にもなる。街の景観も乱し、外国人観光客によくないイメージを与えてしまう。

■ リサイクルでゴミは減るのか?

こうした事態を見かねて、ピュア・ウォーターの袋をリサイクルする団体が出てきた。アクラに拠点を置く「トッラッシー・バッグズ・カンパニー」は、ピュア・ウォーターの袋を含むプラスチック包装紙を再利用し、ショッピングバッグやiPadケース、帽子などを製造販売している。オシャレなデザインが話題となり、ガーナ人だけでなく外国人の注目も集めている。

また、「ブロープラスト・インダストリーズ・リミテッド」は、事業所に送られてきたプラスチック包装紙の1キロごとに10ペセワ(約3円)の報酬を支払う取り組みを2006年から開始。それらの包装紙を使ったリサイクル製品を製造販売している。
これらの取り組みは、プラスチック包装紙が環境に与える悪影響を人々に認知させるだけでなく、収入の機会創出にもなっている。しかし、街中にあふれるプラスチックゴミを見ていると、先はまだ長そうだ。

ピュア・ウォーターがガーナ社会を汚くしたり、人々の健康を阻害したりするのではなく、より便利で豊かなものにするためには、何がどう変わってゆくべきなのだろうか。10年、20年後、ガーナの飲料水はどのような発展を遂げるのか、とても気になるところだ。(矢達侑子)