【ガーナNOW!女子大生は見た(12・最終回)】インフレは日常茶飯事、友人の生活苦を思う

庶民の最も身近な交通手段のバス「トロトロ」。運賃が上がるたびにもめ事が起きる

1年住んだガーナの首都アクラを後にして、私は2014年8月中旬、日本に帰国した。神戸の街を歩いていても、私のことを誰も「オブロニ(チュイ語で白人の意味)」と呼んでちょっかいを出してこないので、少し寂しい毎日を送っている――。それはさておき、私はガーナ大学に留学中、さまざまなものを目の当たりにし、衝撃を受けた。路上の物売り、不安定な電気や水の供 給、身近にある汚職、金の違法採掘、土地を収奪する外国企業‥‥。その中でも特に驚かされたのが、激しい「インフレ」だった。最終回は、インフレの実態と 現地の人たちの反応、その原因に迫ってみたい。

鶏肉は1年で2倍の値段に

「鶏肉の値段がまた上がった!」。私は思わず叫んだ。ガーナに来た13年8月、鶏肉の値段は市場で1ポンド(約453.6キログラム)5セディ(当時のレートで240円)だった。ところがいまや9セディ(現在のレートで約300円)。日本円に換算するとたかだか60円の値上がりと思うかもしれないが、現地の通貨では倍近い。

この1年で値段が急騰したモノやサービスを挙げれば切りがない。ガーナ大学の学内タクシーは3セディ(当時のレートで約140円)から5セディ(現在のレートで約170円)に、ピュア・ウォーター(パック詰めにされた500ミリリットルの飲み水)は10ペセワ(当時のレートで約5円)から2倍の20ペセワ(現在のレートで約7円)にそれぞれ上がった。

電気や水道などの公共料金も高騰した。石油の価格は1年で23%上昇したという。石油価格が上がれば、交通機関や石油製品の値段はもとより、輸送コストもかさむため、あらゆるモノが値上がりする。政府の統計によると、ガーナのインフレ率(消費者物価インフレ)は14年8月時点で15.9%(前年同月比)と、過去4年で最高となった。

物価がセディで上がっても、円換算ではあまり変わっていないのは、円に対するセディの価値が下がったからだ。13年8月は1セディ約48円だったが、14年8月は約27円と1年で40%以上下落した。こうした理由から正直、日本から来た私の生活には支障はなかった。だが周りのガーナ人の生活は火の車。バス代や食費などの値上がりは生活をとてつもなく苦しくさせた。

筆者行きつけの仕立屋。ガーナ人にとっては男女問わず欠かせない存在だが、仕立て代はどんどん上がる

筆者行きつけの仕立屋。ガーナ人にとっては男女問わず欠かせない存在だが、仕立て代はどんどん上がる

「給料は上がらないのに」とデモ頻発

14年7月1日のガーナ共和国樹立記念日には、「責任ある統治を願うガーナの人々」という名の住民組織が、数百人のメンバーを引き連れて首都アクラのフラッグ・スタッフ・ハウス(大統領の住居兼職場)まで行進。ジョン・ドラミニ・マハマ大統領に嘆願書を提出した。この嘆願書は、セディ安や公共料金値上げ、増税などについての懸念を書き連ねたものだ。

また、ガーナ最大の労働者団体「労働組合評議会」をはじめとする労組は同じ月の24日、都市部でストライキを打った。数千人が全国の都市に集まり、大統領に対して「石油製品や公共料金が大幅に上がっているが、賃金は増えていない!」「政府は貧困者を救済するための措置をとる責任がある!」などとシュプレヒコールを上げた。

だが経済が疲弊しているのは市民だけではない。実は国家も同じ。米ブルームバーグは「ガーナの経済成長率は、13年の7.1%から14年は4.5%に減速する」と予測する。

「双子の赤字」でインフレ高進

インフレがここまで深刻化した要因として、独立行政法人日本貿易保険のレポートは「双子の赤字」を挙げている。双子の赤字とは、財政収支と国際収支のダブルの赤字のこと。ガーナの場合、財政・国際収支の両赤字額が国内総生産(GDP)に占める割合は十数%に達する。これが原因でセディの価値は13年に25%、14年1~7月に40%も下落した。「アフリカ諸国のなかでもパフォーマンスが最悪の通貨」とブルームバーグは酷評する。

ガーナでは生活必需品の多くが輸入品だ。車はもちろん、携帯電話、コメ、トイレットペーパー、生理用品も外国から入っている。セディ安は輸入品の価格を押し上げ、庶民の生活に大きな打撃を与える。

だがどうしてガーナは双子の赤字に陥ったのか。

日本貿易保険によると、財政赤字が増えた大きな理由は、大統領選挙を意識する政府が12年に、公務員の給与を大幅に引き上げるなど「人気取り政策」を実施したからだという。この結果、財政赤字は、11年のGDP比4.3%から12年には同11.5%に拡大した。この状況を打破しようと政府は13年半ば、燃料補助金と電力料金補助金の大部分を廃止。13年の財政赤字はGDP比10.1%にとどまったが、健全な状態に戻ったとはいえない状況が続く。

国際収支の赤字に影響したのは輸出収入の減少だ。「主要輸出品の金とカカオの価格が低迷したこと」「11年から輸出が始まった石油の価格が下落傾向にあったこと」の2つが足を引っ張った。

こうした事態に頭を悩ますガーナ政府は14年8月、経済危機を収束させるために国際通貨基金(IMF)に支援を要請。IMFとガーナ政府は9月中旬から協議をスタートさせたところだ。

ガーナ政府はこれまで、IMFプログラムの活用を拒み続けてきたという。その理由について日本貿易保険のレポートは、IMFから融資を受けるには、公務員給与のカットや増税などの条件をのまなければならず、選挙前に政敵に有利になるようなことはやりたくなかったのだろう、と分析する。

路上のココナツ売り。ココナツは筆者の大好きなおやつだが、これも値段が上がった

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ガーナと日本はつながっている!

IMFの 支援が決まれば、ガーナ経済は危機から脱し、国民の生活は良くなるのだろうか。アクラの友人たちに聞いても、現時点では「物価は上がり続け、生活はどんど ん大変になっている。これからどうなるのか不安」という答えが返ってくる。「送金をしてくれないか」と友人から頼まれたことも何度かある。

ガーナで生活したことで私が得た最大の収穫は、メディアや本で目にするアフリカの問題が、より身近に感じられるようになったことだ。自分の友人がインフレ やマラリア、土地収奪などに直面している。私もそうした問題を目撃、体験した。西アフリカで猛威を振るうエボラ出血熱についても、かわいそうだなと思うの ではなく、「みんな大丈夫かな」と友人ひとりひとりの顔が浮かぶ。

忘れてならないのは、気候変動や土地収奪、金の違法採掘などは、先進国が加担しているという事実だ。換言すれば、途上国の問題は他人事ではなく、私自身の 問題。日本とガーナ、両国の距離は遠くても、多くの事象はつながっている。こうなふうに考えられるよう私を成長させてくれたガーナへの滞在を可能にしてく れたすべての人たちに、私は大きな声で言いたい。メダワセ!(チュイ語でありがとうの意)と。