【ドミニカ共和国de協力隊 (8)】女性は忍耐強い? デートに遅刻する恋人を「50分まで待てるわ」

市役所で働く女性たち。笑いながらアンケートに答えてくれた

青年海外協力隊員(ドミニカ共和国)である私の活動のひとつは「学校の巡回授業」だ。教室に行っていつも驚くのが、児童の集中力や落ち着きのなさ。指示を待てず好き勝手する。日本人の私だけでなく、ドミニカ人の教師も疲労困憊。そこで私はふと疑問に思った。ドミニカ人の頭の中には「忍耐」という気持ちはないのだろうか、と。この問いを解消するため、ちょっとしたアンケート調査をしてみた。

サンプルは20~50代のドミニカ人女性15人。職業は、教師、レストランの従業員、大学生、主婦、市役所の職員など多岐にわたる。4つのケースについて「何分待てるか」と質問してみた。結果は私にとってかなり意外だった。紹介してみたい。

■一番待ちたくないのは「会議に遅れてくる人」

待てる時間が一番短かったのは「会議で遅れた人」を待つケース。待てる時間の平均は25.4分だった。その次が「スーパーのレジの列」で31.4分。「家族みんなで揃って食べる」までの待てる時間は39分。最も長かったのは言わずもがな、「デートに遅刻した恋人」で50.3分だ。

ドミニカ人は待つことが大嫌いなのでは、と私は想像していたが、待てる時間の長さは予想以上だった。日本で同じ質問をしたらどうだろうか。おそらくこんな答えは返ってこない気がする。ドミニカ人の“気の長さ”に私は驚いた。

なかでもショッキングだったのは「愛」に対する“情熱の強さ”だ。デートに遅刻した恋人を待てる時間について15人のうち2人は「24時間」と言い切った。「一生だって待てるわ」と胸を張った女性も1人いた。

ユニークなコメントを紹介すると、「愛があれば何だってできる。遅れて来る彼も愛してあげないと」(19歳のレストラン従業員)、「人生で一番美しいのは愛。愛する人のためなら死ぬまで待つわ」(21歳のレストラン従業員)。その一方で、「本当に愛しているのなら、私を待たせないでしょ!」(25歳の市役所職員)という現実的な意見も。当たり前だが、人によって愛のとらえ方は大きく違った。

■ドミ共での暮らしは待ってばかり‥‥

「待つことは厭わないか」との質問に対しては意見が二分した。15人中7人は「待つことは嫌い」、8人が「なんてことない」と答えた。

理由を尋ねると、「生き急いでも仕方ない。待ち人は来るときもあるし、来ないときもある。そんな感じで生きているわ」(21歳のレストラン従業員)、「待てないことは失敗につながる、との言い伝えもドミニカ共和国にはある。必要なことは忍耐強く待たないといけない」(21歳の大学生)。

忙しく生きても良いことはない、というのは、この国で約1年暮らした私にもわかる気がする。ドミニカ人は確かに“ゆったりとした時間”を生きている。昼下がりに家の前で椅子に腰掛け、何もせずにのんびりと時間を過ごしているドミニカ人の姿を私は思い浮かべた。ドミニカ人の幸せそうな笑顔や心のこもったあいさつは、余裕があるからこそ生まれるものかも知れない。

「ドミニカ人は忍耐強いと思うか」とも私は聞いてみた。回答は「忍耐強い」6人、「そうでない」4人、「どちらともいえない」5人。「この国で必要なサービスを受けるためには忍耐強く待たなくてはいけない。病院の診察なんて、3時間や4時間はざらよ」(32歳の主婦)「ドミニカ人は一般的に無秩序。自分のペースで好き勝手に生きている」(34歳の教員)、「状況次第。断水や停電などインフラ不備に対しては辛抱強く過ごしてきた」(53歳の主婦)といったコメントがあった。

私が印象深いなと思ったのは次のコメントだ。「この国で私たちは何でもずっと待ってばかり。いまは、政治体制が良くなって、自分たちの生活が変わることを待っているわ」(28歳の教員)。これが途上国の現実なのだろう。

教室の中では忍耐強くない子どもたち。だが年を重ねていくうちに、彼らも待つことの重要性を学んでいくのだろう。なにしろドミニカ共和国では待たずして日々は過ごせない。ちょっとしたアンケートだったが、ドミニカ人の待つことに対する寛容さとその訳を垣間見た気がした。(種中 恵)