【フィジーでBulaBula協力隊(14)】ウェイストピッカーを「取り締まり」から「許可制へ」、シンガトカで進む行政と市民の協働ゴミ管理プロジェクト

炎天下の中、黙々と目当てのごみを探すウェイストピッカーたち。特に町周辺のホテルから運び込まれる飲料ビンや機械ごみなどが人気のよう

フィジー本島西部にあるシンガトカのごみ処分場にいつものようにモニタリングにいくと、威勢の良い声があちこちから聞こえる。シンガトカ町役場の保健課職員(青年海外協力隊員として派遣)として働く私は、こうしてきちんと町から運ばれたごみが指定された場所に投棄され、管理されているかチェックするのが日課だ。

声の主はこのシンガトカ最終処分場でごみを拾い、生計を立てている「ウェイストピッカー」と呼ばれる人たちだ。ごみ処理場を生活の場にし、時には周辺の迷惑となるため敬遠されることが多い。しかし、そんなウェイストピッカーを積極的に廃棄物管理に役立てようとする取り組みが始まった。

今回は、私の配属地シンガトカ町で進むウェイストピッカーの組織化・協働の取り組みを紹介したい。

■登録料はID作成代の180円のみ

処分場のゲートが開く朝8時、一人また一人と短パン姿に大きな麻袋を携えた人たちが「出勤」してくる。朝一番にやってくるごみ収集車を待ち構えて、人より先に換金の価値がある廃材やまだ使えるものを探すためだ。

彼らは、町役場に名簿登録されたIDカードを持つウェイストピッカーたちだ。この処分場を管理するシンガトカ町役場の管理棟で、各自IDカードを管理人に提示して出入記録に記入、サインをする。登録ウェイストピッカーが負担するのはID作成料の3フィジードル(180円)のみ。あとは管理運営の邪魔にならない限り、運び込まれる空き缶や飲料ボトル、鉄クズなど何を持ち帰ってもかまわない。その代わり処分場内で何が起こっても、町役場は責任を負わないというのが条件だ。

「週5日処分場に通って、ビールの空きビンと金属製品を拾う。運のいい時は週に100~150フィジードル(6000~1万円)稼げるよ」。こう話すのは登録ピッカーの一人で、近くの村に住むフィジー人のルケさん。

町役場で登録済みのウェイストピッカーは現在50人超。彼らに安定した職はない。フィジー人の平均月給は500~700ドル(3万~4万5000円)。ウェイストピッカーは正規に雇用されるより所得は低いし、得られる収入も不安定だ。ただルケさんのように村に住み、扶養家族がいなければ、ごみ拾いでも月収200~400フィジードル(1万2000円~2万4000円)と暮らしていくには十分な額が稼げる。

これまでのウェイストピッカー対策といえば、処分場をフェンスで囲いセキュリティーを設置して、力ずくで閉め出すことだけだった。しかし、今では試行錯誤を繰り返しながら町役場・ウェイストピッカー双方が歩み寄りつつある。

シンガトカ町役場の町長代理アベイさんは「町役場はウェイストピッカーに働く場所と収入を得るための手段を提供している」と、町役場の果たす役割を強調する。町役場にしてみれば、ウェイストピッカーはボトルやクズ鉄などを拾って処分場の運営管理の邪魔になる障害物を除いてくれる。回収されたごみは業者に引き取られ資源として再使用される。大きな廃棄物・資源管理というサイクルでみれば、ウェイストピッカーもまた重要な役割を果たしているのだ。

2014年9月にJICA広域技術プロジェクトの支援を受けて改善工事を行なったシンガトカ最終処分場。運営開始から3カ月、火災や周辺の住民からの苦情は格段に減った

2014年9月にJICA広域技術プロジェクトの支援を受けて改善工事を行なったシンガトカ最終処分場。運営開始から3カ月、火災や周辺の住民からの苦情は格段に減った

■町役場の姿勢を変えた処分場の改修工事

もちろん最初から順調にことが進んだわけではない。今は町役場に対して協力的なウェイストピッカーも、前はあまり褒められたものではなかった。

ウェイストピッカーたちは町役場の管理人が目を離した隙に、処分場内で飲酒・喫煙。「夜中に処分場に侵入し、ドラッグを吸ったり、ごみ山に放火をしている」といった苦情も近隣住民より町役場へ寄せられていた。

ところが、2014年9月、シンガトカ処分場の改修工事で転機が訪れた。国際協力機構(JICA)広域技術プロジェクトの全面支援の下、処分場の大幅な改善工事がなされ、処分場は見間違うほど機能的に姿を変えた。かつて無造作に投棄されていたごみは、今では指定された場所に運ばれ、重機で押し固められている。処分場全体にも覆土がされて、異臭やごみの飛散、火災も格段に減った。

これよりさらに変化したのが、町役場の廃棄物管理に対する姿勢だ。改修工事前は「トラブルの種」としか思っていなかった処分場を、町の廃棄物管理の柱と捉えるようになったのだ。ウェイストピッカー対策に関しては同JICAプロジェクトの下、すでに組織化の取り組みを2008年より始めている近隣のラウトカ市役所の例を参考にした。町役場は以前、ウェイストピッカーをごみを漁り問題を起こす「厄介者」としかみていなかった。しかし今では一緒に処分場を利用する利害関係者として、無理に追い出すのではなく、共存の道を探っている。

改善工事により整備された処分場の視覚的インパクトは大きかったに違いない。ただなにより飲酒に喫煙・ドラッグとしたい放題だったウェイストピッカーたちが、町役場の方針に従うようになったのは、こうした行政の姿勢の変化が影響している。

■ごみ漁りを子どもに手伝わせる人も

かつては厄介者として「取り締まり」の対象だったウェイストピッカーを「許可」して処分場管理に役立てる。この仕組みであればウェイストピッカーにとっても合法的に仕事ができ、生計手段を確保できるのだ。

処分場のウェイストピッカーたちも、好んでごみ漁りをしているわけではない。「前科があってまともな職に就けない」「実の子どもに面倒をみるのを放棄された」「失業中で現金収入が欲しい」‥‥。ごみ拾いの副収入を求めて処分場を訪れる人もいるが、必要にせまられてごみを漁る人が大半だ。

ウェイストピッカーと町役場のミーティングの様子。役場が積極的に処分場管理に乗り出す姿勢を見せたことで、ピッカーたちも行政に対して協力的になりつつある

ウェイストピッカーと町役場のミーティングの様子。役場が積極的に処分場管理に乗り出す姿勢を見せたことで、ピッカーたちも行政に対して協力的になりつつある

こうした様々な「理由」を持つウェイストピッカーたちを無理に閉め出すと、唯一の収入源を断つことになり、犯罪のもとにもなりかねない。許可制にして居場所を提供することは、こうしたトラブルを未然に防ぐ目的も兼ねている。

2014年10月の処分場オープン以来うまく機能しているこの仕組みだが、問題はごみを求めて登録申請に訪れるウェイストピッカーが途絶えないことだ。フィジーの就業環境の悪さ(失業率8.8%、国際労働機関2014)を表しているのか、その数は膨れ上がるばかりで70人に達しようとしている。

「きちんとルールを守ってごみを拾うぶんには良い。ただ、あまりに処分場に出入りするウェイストピッカーが増えすぎると、コントロールが効かなくなるのではないか」。そんな心配が町役場にはある。また、中には処分場にIDがない人を連れて入り、ごみ拾いを手伝わせている人がいることも問題だ。人数制限をするべきなのか、許可制ではなく規制を設けるべきなのか、町役場の悩みはまだまだ尽きそうにない。