「卒園生を対象にしたプロジェクトをやりましょう」。青年海外協力隊として私が活動するコロンビア・カルタヘナの保育園のカウンターパートから、こう言われたのは8月頭のことだった。このプロジェクトは私が「卒園生のアフターケアーをしたい」と今年1月に提案したもの。ようやく動き出すんだ、と私の心は嬉しい気持ちでいっぱいになった。
このプロジェクトでは、保育園と大学生、協力隊の3者が一緒になって、卒園生を対象にしたアクティビティを毎週土曜日の午前中に行う。健康や衛生、性教育などのテーマを毎回決め、必要なことを子どもたちに伝えるというのが趣旨だ。
ところがいざふたを開けてみると、困難の連続だった。まず、最初のミーティングを、大学生も大学教授もすっぽかした。私が別の活動をしている日に突然、教授と大学生は「ミーティングをやろう」とやってきた。ミーティングの時間を作ろうとしたが、カウンターパート(保育園のスタッフ)は別件があって欠席。仕方がないので私と教授、大学生でミーティングするが、スペイン語の乏しい私の意見はなかなか採用されない。私が発案したプロジェクトなのに、私抜きで進んでいく。嬉しさと悔しさが入り混じり、私の心境は徐々に複雑になっていった。
プロジェクトをスタートするため、卒園生から参加者を募る広報や受付などの準備を進めた。私は、スペイン語でなんとか、プロジェクトの詳細を卒園生や保護者に説明し、受付した。結局、40人の卒園生をメンバーとして登録した。
プロジェクトの当日、40人中35人の子どもが親と一緒にやって来た。だが事前に何をするか、どう進めていくかの打ち合わせもなかったので、私は不安でいっぱいだった。とりあえず、カウンターパートがなんとか時間をつないでくれる。私は、全体の流れがつかめず、フォローできない。スペイン語で臨機応変に対応できない自分が悔しかった。
この日は結局、バタバタとプロジェクトの概要説明、各保護者への聞き取り、身体測定などをして終わった。
私は、やりきれない気持ちでいっぱいだった。プロジェクトそのものは自分のやりたかったことだし、保育園の意向や大学生の実習内容とも一致していた。だが、言葉の壁で「やりきった感」がない。私の達成感なんて必要ないのかもしれないが、私だって気持ち良くプロジェクトにかかわっていきたい。悔しさで私の心は満ちあふれた。
このプロジェクトは12月まで続く。大学生がもっと学び、気づきを発見できるよう、またこのプロジェクトがずっと継続してほしいから、私はもっと積極的に意見を出してかかわっていこうと思う。
藤 早苗(とう・さなえ)
1982年生まれ、福岡県出身。学生時代にフィリピンの児童養護施設でのワークキャンプに参加し、海外ボランティアに興味をもつ。大学卒業後、上京して、都内の児童養護施設に児童指導員として5年間勤務。仕事のかたわら、ボランティアで子ども支援や青少年育成に携わる。これまでに自分が得た経験を海外で活かしたいと思い、青年海外協力隊に応募。2011年6月末から13年6月末まで、ソーシャルワーカーとして南米コロンビアで活動。任地はカルタヘナ、配属先はNGOアクトゥアル財団。