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アロハシャツに腰巻布姿の「正装」をしたフィジーの男たちが交代でココナツの器を回していく。中身は、植物の根を水に溶かして作った嗜好飲料「カバ」だ。フィジーなど大洋州諸国でみられるカバの儀式だが、大みそかは特別。幸運にも私はある村で、そんな瞬間に立ち会うことができた。
儀式は、「ブレ」と呼ばれるかやぶき屋根の伝統家屋で厳粛な雰囲気のもとで進む。女性は立ち入り禁止だ。「おーい、タキ(もう一杯)」。男たちの低い声が響く。回されるカバは去りゆく1年に感謝するとともに、新年への願かけの意味が込められた一杯でもある。
大みそかの儀式のもうひとつのポイントは、近隣の村のチーフを招待することだ。カバの入った器をホストの村人が位の高い順から回していくのがルール。「マザ!(飲み干した)」。客が器を空けると、村人は両手を叩き、合いの手をいれる。こうしてお互いの村の発展と全員の健康をカバに祈るのだ。
カバは通常、仲間同士でリラックスしたい時や接待で振る舞われる。しかし、かつては村同士で争いが起きた時、調停の場でも用いられていたという。嫌なことはカバに流して、毎日を楽しく生きる。カバはフィジーの万能社交ツールだ。