国連児童基金(UNICEF)は、子どもの権利条約が国連総会で採択されて25周年を迎えた11月20日、「世界子供白書2015」を発表した。今回のテーマは「未来を再考する:一人ひとりの子どものためのイノベーション」。白書のなかでUNICEFは、最も厳しい状況にある子どもたちの生活をイノベーションが改善できると強く訴えた。
成功例のひとつが、補聴器用充電池「ソーラー・イヤー」だ。電力供給が不安定なコミュニティからの要望を受け、南部アフリカの企業デフトロニクスが開発した。太陽光や家庭の照明、または携帯電話の差し込み口を使って充電できる。40カ国以上のアフリカ諸国ですでに売られ、とりわけジンバブエでは、聴覚障がいのために教育を受ける機会のなかった子どもの役に立っているという。
栄養の分野では、NGO「VALIDニュートリション」が「コミュニティベースの地域栄養不良管理プログラム」(CMAM)を開発した。これは、地域の診療所の協力を得たうえで、調理せずに食べられる栄養補助食品を使って自宅療養を実現する看護モデル。入院させ、栄養補助食品を投与する従来の方法はコストが高く、なかなか一般に普及しない。子どもを親自身が看護できるツールとなるCMAMは、急性栄養失調の治療にとって大きな役割を果たしている。
洪水が多発するバングラデシュには「ボート(船)の学校」も誕生した。雨期でも教育を受けられるようにするのが目的。運営母体は地元のNGOシュデライ・スワニバル・ラングッサ。2002年に1隻から始まったボート学校はいまや、図書館や診療所、成人教育センターも揃えるまでになった。ボートの数は54隻に増えている。
コロンビアの10代の少女2人が発明したのは、聴覚障がい者が混雑した街を安全に移動できるための器具「ビブラソール」だ。自動車のクラクションが聞こえなくても、ビブラソールが、クラクションの周波数に反応してバイブレーションと光に変換し、危険を知らせてくれる。2人の少女自身も耳が不自由だから聴覚障がい者の苦労を理解している。
視覚障がい者向けのナビゲーション支援アプリ「Seeing Eye Pad」を開発したのも10代の若者3人。このアプリは、タブレットが搭載するカメラで周囲の状況をとらえ、音によって、ドアや階段など障害物があることをユーザーに伝える。
NGOバタフライズが手がけるプロジェクト「子どもたちのカザナ開発」(CDK)もユニークだ。働く子どもたちのための貯蓄貸付組合で、子ども自身が運営。貯蓄し、利益を得て、事業資金や教育資金を必要とする組合員を支援する。貧困から抜け出せるよう、お金の管理法なども指導している。ストリートチルドレンも参加するのが特徴。
ウガンダの奥地では、学校のトイレにたまる排せつ物をバイオガスにし、給食を作る燃料に使っている。以前は、女子生徒らが給食を作る前に授業をいったん離れ、薪を集めに行っていた。だがバイオガス化で授業に集中できるようになったという。
UNICEFの アンソニー・レーク事務局長は「イノベーションが一人ひとりの子どもに恩恵を与えるために、私たちはもっとイノベーティブでなくてはならない。最善の解決 策は、新しいネットワークやコミュニティのイノベーションからもたらされる。またそれらは若い人、そして子どもたち自身によってもたらされる」と話す。