アフリカ南東部のマラウイで、16歳未満の少女へのレイプが増えている。オールアフリカが2月14日付記事で報じたもので、その背景には「処女とセックスするとHIVが治る」との誤った信仰がある。HIV感染者が少女をレイプすることから、若者の間でHIV感染率がこれまで以上に高まりかねないといった懸念も広がっている。
地元警察の発表によると、マラウイ南部では2013年4~12月の9カ月で、16歳未満の少女が被害者となったレイプ事件は182件起きた。これは、前年同期の125件から1.5倍の増加だ。被害届を出さないケースも多いことから、実際はこの何倍もの被害者が泣き寝入りしているとみられる。
世界保健機構(WHO)、国連エイズ合同計画(UNAIDS)、国連児童基金(UNICEF)が共同で2011年に刊行した統計資料では、世界のHIV感染者の約68%が、マラウイを含むサブサハラ(サハラ砂漠以南の)アフリカに集中している。HIVがアフリカに多い理由のひとつとなっているのが、処女をはじめ女性をレイプする“習慣”だ。UNAIDSによると、レイプされたことのある女性は、そうでない女性に比べてHIV感染率が3倍近くも高い。
警察は、小学生から高校生までの少女に対し、レイプを受けた際は被害届を出すことができる、と教えている。ただマラウイでは女性の社会的立場が弱く、少女はもちろん、成人女性でさえ、レイプをはじめとする暴力被害を警察に訴える人はまだまだ少数だ。
地元警察の高官は「マラウイでは、夫が妻に暴力を振るうことは『家庭を良くするための薬』との認識がある。暴力を受けた女性はそれを報告しようとしないが、それはコミュニティの中での立場が悪くなる可能性があるからだ。夫から、離婚を言い渡される可能性もある」と指摘する。
処女とセックスするとHIVが治ると信じている人が大勢いることが“公式”に明らかになったのは、マラウイ国家エイズ委員会のトーマス・ビシカ理事が2008年にマラウイで実施した調査だった。これによると、この信仰の背後には呪術師の勧めがある。呪術師はこれ以外にも、自分の娘とセックスすれば金持ちになれると説き、それを信じている男性もいるという。
マラウイ南部にあるムランジェ・ミッション病院に勤務するHIV・エイズコーディネーターのモーゼ・チカヤ氏は言う。「HIVを治療しようと処女とセックスをする人の多くは中年男性だ。なぜなら彼らは若い女性を惹きつけるだけの十分な財力を持っているからだ。自分勝手な大人のこじつけで、罪のない人たちを傷つけている」
“HIV治療セックス”ではコンドームを使わない。このため未成年の少女たちはもちろん、コミュニティ全体、もっといえば国全体にまでHIVがさらに広がる可能性が増す。
HIVに感染しても、治療薬を正しく服用すれば普通の生活を送ることができる。正しい知識を広め、誤った処女信仰を払拭することがHIV対策だけでなく、女性の権利を守るうえでも重要だといえそうだ。(マラウイ・リロングウェ=谷口香津郎)