国連の意義・役割を再確認、国連フォーラムが自由な発想でワークショップ

国連フォーラムは、「ワークショップで学ぶ国連の基礎知識」と題する勉強会を米ニューヨークのコロンビア大学で開催した。国連職員、政府関係者、大学教授、会社員、学生ら40人が参加。8グループに別れ、それぞれのテーマについてその場で調査・発表し、質疑応答するという「参加型」の形をとった。

テーマは、(1)国連の権限や予算など国連の総合的な問題、(2)ポストミレニアム開発目標(ポストMDGs)、(3)世界の飢餓問題への対応、(4)防災、(5)国連加盟国や国連本部の場所にまつわるエピソードといった「国連トリビア」、(6)国連と民間セクターの連携、(7)日本と国連のかかわり、(8)国連職員になるためのプロセスや職員として成功する秘訣――の8つ。国連事務局人道問題調整部人間の安全保障担当顧問である田瀬和夫氏が自身の国連職員としての経験も交え、各グループの発表にコメントした。

グループ発表では参加者のそれぞれの強みを活用。国連の権限について調べたグループは、国際法に詳しい参加者の専門知識を生かし、国連と国家主権や国際司法裁判所(ICJ)の関係性の観点を織り交ぜながら、発表した。例えば、内政不干渉の原則から国連は加盟国の主権に関する問題に直接介入することはできないし(国連憲章第2条第7項)、またICJが扱える問題は原則的に国家間の問題に限られ国家以外の主体が当事者となっている事案を裁くことには限界がある。

田瀬氏は「グローバル化の流れのなか、国家主権は必ずしも常に絶対的なものではなくなってきている。国連がどのように主権国家と補完しあいながら国際問題に対応していくのかが今後課題」とコメントした。

ポストMDGsのグループは経済学の専門家の意見を取り入れ、途上国の経済に着目。「途上国の現状をみると、インフラや経済基盤が脆弱であるため企業の自立的発展には一定の障害がある。企業の成長を促進するような環境・基盤の整備に国連がかかわることは有意義ではないか」と指摘した。

また国連と民間セクターの連携を担当したグループは、公共政策を専門とする大学教授や大手企業の社員の見解を中心に、「国連と企業の距離」をどう保っていくべきかをまとめていった。具体的には、国連がある企業の事業に協賛することができれば、企業にとってもCSR(企業の社会的責任)の観点から有益に働くだろうとの意見を出した。

田瀬氏は「公平性確保の問題から国連が特定の企業に『お墨付き』を与えることには一定の制約が存在するという側面はあるが、国連・企業の双方にとってプラスとなる関係を構築できるよう努力することは重要だ」と指摘した。

防災を扱ったグループは、2011年にタイで起きた大洪水の現場を経験した参加者を中心に、防災意識を高める必要性や、そのためのパブリックコミュニケーションの重要性などを指摘した。

飢餓問題への対応を議論したグループは、飢餓人口や死亡率に占める飢餓の割合といったデータを調べ、国際協力機構(JICA)を中心に日本が支援する「ネリカ米(New Rice For Africa)」栽培など飢餓への取り組みを紹介した。ネリカ米とはアフリカ地域の食糧事情を改善するために開発された品種で、耐病性の高いアフリカ在来種と多収性のアジア種を交配したもので、飢餓問題に貢献することが期待されている。

国連トリビアのグループは、パン・ギムン(Ban Ki-moon)国連事務総長の英語表記にどうして「Ki」と「moon」の間にハイフンが使われるのか、といった普段意識しない事柄を調べ、場を和ませた。「Ban Ki moon」とハイフンを省略してしまうと、名字を名前の後につける国々の人が、「Mr. Moon」だと勘違いしてしまうのを防ぐためとのことだが、意外な理由に会場は盛り上がった。

国連職員になるためのプロセスを担当したグループは、各試験制度の特徴について解説、情報をシェアした。

斬新なアイデアを発表したグループもあった。日本と国連のかかわりについて調べたグループは、国連の代わりとなる国際組織を日本が立ち上げ、その組織の中でリーダーシップを発揮するのはどうかという考えを披露。国連の権限について発表したグループは、加盟国間の公平性を向上させるために安全保障理事会常任理事国の拒否権を弱めることが可能かどうかについて問題提起。こういった議論には現実的なハードルが存在するものの、国際政治の常識にとらわれない自由な発想が、各グループの発表に奥行きと広がりを与えてくれた。

国連フォーラムは、国連のことをもっと知りたいと考えている幅広い人に議論・交流の場を提供することを使命とする任意団体。多様な背景を持つ参加者が各々の強みを生かし、幅広いテーマについて協力して調べ、新しい視点を提供した参加型の本勉強会は大盛況に終わった。(国連フォーラム橋本仁)