日本vsフィリピンの“えびせん対決”! 浮かび上がる「静かなる疾患」

オイシとえびせん

フィリピン・セブ市のカルボン・マーケットで9月14日、フィリピンで大人気のエビクラッカー「オイシ」(スタンダード)と日本のカルビーの「かっぱえびせん」(フレンチサラダ)を地元に人に食べ比べてもらい、どちらが好きかの聞き取り調査をした。結果は9対9の引き分け、「どちらとも言えない」が3票だった。だがそこから、フィリピン人を静かに蝕む生活習慣病の危険性が浮かび上がった。フィリピン政府は事態を重く見て、政策を打ち出している。

■しょっぱい=おいしい?

「あっ、オイシだ!」。赤いえびが描かれたオイシの袋を持ってマーケットの中を歩くと、老若男女から次々と声がかかる。通りかかる人は、嬉しそうに笑いながら、袋をじっと見つめる。その人気ぶりはいまも健在だ。

オイシは、マニラ近郊に本社を置くリワイワイ・マーケティング・コーポレーションの商品。外観や味は、日本のかっぱえびせんとほぼ同じだ。だがこの調査を進めていく中で、フィリピン人の味覚について、興味深い事柄が発覚した。

一つ目は、「オイシは、えびせんよりしょっぱいからおいしい」という声がいくつも上がったことだ。フィリピン人の中では、「しょっぱい」は「おいしい」になる。

二つ目は、オイシに投票した9人のうち5人を40~60代の女性が占めることだ。かっぱえびせんを支持した9人は年齢、性別ともにバラバラだった。この年代の女性にはオイシの熱烈なファンが多そうだ。

■「もっと健康に注意を払うべき」と政府

フィリピンでは現在、食生活のバランスの悪さに起因する生活習慣病が、死因の大きな割合を占めている。

世界保健機関(WHO)は2008年、フィリピン人の健康に関する調査を行った。それによると、健康リスクが最も高いのは「高血圧」で、人口の約4分の1が患っている。また、国際移住機関(IOM)移民医療部門のレンゾー・ギントウ相談役(医師)は、フィリピン国民の20分の1は血中糖度が高く、約4分の1は肥満に悩まされている、と話す。特に肥満度が高いのは50~60代の女性で、その比率は約30%。オイシの支持層と一致する。

こうしたデータを前に、政府も対策を迫られている。「もっと健康的な生活習慣を身に着けよう」と呼びかけるのは、フィリピンのテオドロ・エルボーサ保健相である。政府は2012年から、この病気の原因は不健康な食生活と運動不足にあると見て、5つの政策を実施中だ。この中で食生活に関係するものは、①法整備や食育、カロリーや塩分をはじめとする適正なラベリングなどにかかわる政策の制定、②保健・食教育キャンペーンの促進だ。

問題は、2年前に策定されたこの政策がどう実施されているのか、という点だ。その後、政府がどのようにそれを施行していったのか、今後も注視する必要がある。

「ジャンクフードは体に良くないので、できるだけ子供には食べさせたくない」と、二児の父親であるフィリピン人男性はため息をつく。オイシを「おいしくない」と思うことも、フィリピン人のためには大切なことかもしれない。(小島彩)