過激派組織「イスラム国」(IS)の犯罪行為をテーマとする国際風刺画コンテストがこのほど、イランで開催された。イスラム教シーア派を国教とするイランは、スンニ派の過激派とされるISとは敵対関係にあるといわれる。コンテストを巡る関係者の発言や報道から開催の背後にある目的を考察してみた。
コンテストは複数の芸術協会が主催し、2部門で実施された。1つめはISの犯罪をテーマにした部門で、2つめは嫌悪すべき人物部門。国営放送イランラジオによると、開催目的は2つある。ISがシリアやイラクの支配地域で行っている犯罪行為を非難し、抵抗の文化を普及させること。そして、イランと他国の芸術家の交流と対話の下地を作ることだという。
しかし、イランラジオの記事やコンテストの作品からは、別の目的も見て取れる。IS自体はもとより、イランが敵視する米国、イスラエルやカタールなどの湾岸諸国を「自国の利益のためにISを操っている」と非難することだ。嫌悪すべき人物部門の作品で描かれたのは、ISの指導者バグダディだけではなく、カタールの首長、イスラエルのネタニヤフ首相、米、英、仏各国の大統領だった。
インターネットニュースサイトのヘビーは「作品は、イランの極端な反米、反イスラエル主義が反映されているものが多いことをふまえて鑑賞する必要がある」と指摘する。仏AFP通信は「このコンテストでは、主にアラブ諸国の首脳やアメリカ人、シオニストが扱われている」と報じている。
コンテストを紹介する6月13日付のイランラジオの記事は、コンテストの説明から始まり、次のように主催者のショジャーイー・タバータバーイー氏の言葉を引用し、イスラエルと米国への攻撃を展開している。
「(シオニスト系の)あるメディアのサイトでは『イランで開催の風刺画コンテストが、ISをイスラエルや米国と関連付けた』という見出しの記事が掲載されていた。またこのニュースに対する読者からのコメント欄では、ISに対するシオニストの本当の感情が読み取れ、ISが中東地域でシオニストと米国の目的のために結成されたことが理解できる。コメントの多くは、こうしたイベントによりISが攻撃されることにシオニストが不快感や怒りを感じている、というものだった。例えば、ある人のコメントには『イスラエルが世界でより安心感が持てるように、イスラム教徒が殺されてしまえばいいのに』というのがあった。また、別の人のコメントでは、中東におけるISの存在は必要である、とされていた」
こうしたコメントをあえて取り上げたうえで、イランラジオはこの記事を次のように締めくくる。
「このように読者のコメントの1つからも、ISをテーマにした国際風刺画コンテストの開催にシオニストがなぜ怒りを感じているかが見て取れる。複数の証拠からすると、どうやらISはシオニスト政権とつながりがあり、シオニストが長年にわたって達成できなかった目標を追求しているように思われる」
今回のコンテストは、2月に作品募集を開始。1072点の応募作品から選ばれた172点が最終審査に進み、5月31日に首都テヘランのアラスバラン文化センターで行われた閉会式で受賞作が発表された。最優秀賞はイラン人アーティストだった。
参加者の出身国はイランがもっとも多く、中国、ブラジル、オーストラリア、ドイツ、ペルーや、マレーシアやインドネシアなど40カ国以上に及んだ。受賞作はイラン国内をはじめ、イラク、シリアやレバノンで展示されるという。
米国の非営利団体、ジャーナリスト保護委員会(CPJ)による「もっとも検閲が厳しい国」(2015年)、「投獄されているジャーナリストの人数がもっとも多い国」(2014年12月)で、イランはいずれもトップ10に入っている。
上述のタバータバーイー氏は、コンテストの閉会式で「イランや他国の自由な風刺画家の作品が、他国でも展示されることを約束する」と述べた。だが、イランでは同国のアーティストが避妊を制限する法律に反対して国会議員を動物に例えた風刺漫画を描き、6月に禁固12年9カ月の判決を受けたばかりだ。
イランはまた、サウジアラビアのイエメンへの攻撃を非難する風刺画コンテストも6月に開催。2月には仏シャルリーエブド紙がイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載したことを非難するため、2006年以来2度目となる「ホロコースト風刺画コンテスト」も開催している。
イランは自国のアーティストやジャーナリストの自由な活動を制限しつつ、敵対する国を非難する手段としては風刺画を用いる傾向にあるようだ。