内閣府は3月12日、2060年に向けた今後の労働力人口の予測をまとめた。出生率が上昇し、女性と高齢者の労働参加が増加したとしても、現在よりも20%ほど労働人口は減るという。高齢化が進み、2025年には介護士が100万人不足するといわれている。この窮状を救うためには、途上国から労働者を大量に受け入れるしかないのだろうか。
日本の介護士不足、フィリピンの貧困問題の解決を目指す団体がある。フィリピン・マンダウエ市に拠点を置く非営利法人・新日系人ネットワーク(SNN)だ。新日系人とは、ここ数十年に、主にフィリピン人女性と日本人男性の間に生まれた子どもを指す。父親のなかには、フィリピンで婚姻届を出したものの、経済的事情などにより帰国し、音信不通になる例も少なくない。SNNは、仕送りが途絶えて貧困にあえぐ母子の支援を8年前から続けている。
岡昭理事長によると新日系人は、20歳までに父親に認知をされれば日本国籍を取得することができるという。自由恋愛の結果とはいえ、日本人男性に見捨てられた母子の希望は、日本で働くことだ。SNNは日本語教育を無料で受けさせるほか、日本での就労を支援し、これまで600人以上のフィリピン人母子を日本に送り出した実績がある。
子どもと一緒に来日する母親の多くは主に介護士として働く。明るくほがらかな性格のフィリピン人は、高齢者から評判もいい。日本で教育を受けた新日系人が大人になった時には、これからの日本の重要な労働力の一員となるだろう。「フィリピン国内には、約10万人の新日系人が住んでいる。何らかの形で支援を続けなくてはならない」とSNNの岡理事長は語る。
新日系人と母親が日本に住み働くことを希望するのは、他の途上国出身の労働者と同じように、母国で働くよりも高給が得られるという理由もあるだろう。しかし、他の外国人と異なる点は、新日系人は日本人としてのアイデンティティをもつ存在だということだ。新日系人が、現在置かれている貧しい環境から脱却し、日本人として働けるようになれば、日本社会にとっての救世主となるに違いない。(原彩子)