開発教育協会(DEAR)は7月22日、「世界がもし100人の村だったら」をテーマとする一般公開セミナー「開発教育入門講座」を横浜YMCAで開催した。ファシリテーターを務めたのはDEARボランティア(入門講座タスクチーム)の米田和希子氏、DEAR職員の八木亜紀子氏。書籍『ワークショップ版・世界がもし100人の村だったら』(DEAR)は2003年の発刊以来1万5000部を売り上げ、全国の学校で使われているベストセラー教材だ。
■言葉は違っても「あいさつの仕方」は共通?
この講座では、世界の多様性を知るひとつのアクティビティとして、「役割カード」を使ったワークショップを実施した。役割カードには、自分の仮想の性別、年齢、居住地域、言語、あいさつの言葉などが書いてある。「女、大人 、アジア、中国語、ニーハオ」といった具合だ。
それぞれの役割が書かれたカードを参加者に1枚ずつ配り、同じあいさつをする仲間を探し、グループでまとまる。そうすると、世界でどの言語が最も使われているか、どの言語が少数派かが浮き彫りになる。ユニークだったのは、ベンガル語とアラビア語のように、言語は違うのに、ともにイスラム教徒のためにあいさつは同じ、というケースもあることだ。
また、読み書きできない人の気持ちを体験する時間もあった。米田氏がネパール語で「座ってください」と書かれたカードを会場全体に向かって表示した瞬間、そのことばの意味が日本語で説明されたカードをもつ参加者のみが意味を理解し、一斉に着席した。
ネパール語を理解できなかった参加者は、何が起きたのかわからずただ立ち尽くすのみ。「何を書かれているのかわからず、不安になった」。識字者と非識字者の違いや、読み書きができない気持ちを、机上の理論ではなく体を動かして感じられる仕組みだ。
■クッキーで体感! 世界の貧富の差
続いて、世界の格差の構図を体感できるアクティビティが行われた。参加者は、仮想の所得レベルごとに5つのグループに分かれた。最高所得グループにはクッキー30枚が、最低所得のグループには1枚の半分が配られた。クッキーはさらに各グループのメンバーで分け合って食べる。世界の所得配分の不均衡をクッキーで体感する仕組みだ。
この不均衡は「シャンパングラスの世界」と呼ばれている。世界人口を所得配分で5分割した場合、最富裕層の20%が世界の全所得の74.1%を得る一方で、最貧層の20%はわずか1.5%のみ。その様子を図にし、縦軸に所得階層、横軸に所得配分をとると、上から下にかけて急激に細くなるシャンパングラスのような形に見えるというわけだ。
世界銀行によると、1日1.25ドル以下で暮らす「極度の貧困」状態の人の割合は、1990年の43.1%から2010年の20.6%へと大幅に減少した。しかし、このシャンパングラスのような所得格差の構図には変化がみられない。むしろ格差は拡大している、と米田氏は強調した。
「世界がもし100人の村だったら」を題材とする一連のワークの目的についてDEARの八木氏は「参加者が言語や文化、宗教の多様性、格差についてリアルに学びとれること」と話す。ワークの対象年齢は、小学生から大人までと幅広い。2013年度にDEARは学校などの教育機関で計160回の出前講義を実施し、参加者総数は延べ4800人を数えた。
■高校教師「生徒のキャリアデザインに役立てたい」
この講座に参加した女性の高校教師(理科)は「私が担当する進学コースの生徒たちは、他人から指示されたことは素直にできる。だが、自分で積極的に動いたり、主張したりする生徒は少ない。参加型学習は効果的だから、このワークショップの内容を参考に高校で開発教育を始めたい。生徒が世界を知るきっかけ、将来のグローバルな進路やキャリアを主体的に考えられるようなきっかけになれば」と語る。
このほかの参加者からは「日本に住んでいて今までわからなかった世界が見えてきた」「格差についてわかっているつもりでも全然知らなかった」という声が聞かれた。
■「日本に生まれて良かった」で終わらせるな
八木氏は最後に「参加者たちは『日本に生まれて良かった』という感想で終わってはいけない。そこから自分はどうアクションできるかを考えさせることが大切」と締めくくった。
開発教育は、1960年代に欧米の開発関連のNGOから始まった参加型の教育活動。一人ひとりが開発の問題を理解し、望ましい開発のあり方を考え、共生可能な地球社会づくりを目指すものだ。
英国では「市民教育」として国の教育指導カリキュラムに指定されているが、日本国内の実践校はまだ少ない。だが2014年度から文科省主導で始まった全国の「スーパーグローバルハイスクール」(SGH)指定校の中には、「グローバルリーダー育成」や「持続可能な開発」というテーマで開発教育に着手し始めている学校も多い。
SGHとは国際的に活躍できるグローバルリーダーの人材育成教育の研究開発をする高校・中高一貫校を文科省が選出、指定した56の学校。1校あたり上限1600万円の予算が投入される。
開発教育入門講座には大学生や教師など35人が参加した。自己紹介のアイスブレークから最後のまとめに入る直前まで、机やいすをほとんど使わないのが特徴。全員参加型のアクティビティだからだ。DEARは、今回のような開発教育入門講座を、今後も月1度のペースで開催していく予定だ。(吉田沙紀)