日本の国際協力の新たな指針となる「開発協力大綱」(旧ODA大綱)が2月10日に閣議決定されたことを受け、国際協力NGOの2大ネットワークである「国際協力NGOセンター(JANIC)」と「動く→動かす」は同日、緊急声明を発表した。このなかで「非軍事原則の徹底」と「NGOとのさらなる連携強化」を提言した。
■相手国軍への支援を認めていいのか?
開発協力大綱は、これまでのODA大綱と同様、「非軍事の原則」を掲げている。だがNGOが問題視するのは、「民生目的または災害援助など非軍事の目的」に限るとしながら「相手国の軍または軍籍を有する者」に対する支援について「その実質的意義に着目し、個別具体的に検討する」との条文が盛り込まれた点だ。これは、日本のODAとして初めて相手国軍への支援を認めたことを意味する。
災害援助をはじめとする緊急人道支援の現場では、軍が救援物資の輸送や基礎インフラの復興で重要な役割を果たす。しかし軍への支援は、当初は民生目的だとしても、その後、相手国の軍によって軍事目的に転用されるリスクがある、とNGOは懸念する。
軍事転用を未然に防ぐ目的から、NGOは再三にわたって、条文の削除か、歯止めとなる明確な文言の挿入を外務省に求めてきた。だが問題の条文は変更されなかった。NGOは、日本のODAが将来、歯止めない軍事協力に傾斜していかないよう、日本政府に対し、非軍事原則の徹底とODAの使途の情報公開を強く求めていく方針だ。
■貧困解消にはNGOとの連携強化が必須
NGOのもうひとつの提言は、途上国の貧困を削減するため、日本と途上国のNGOとの連携を強化すること。NGOはかねて、日本の開発協力の一義的な目的は「途上国の貧困解消であるべき」と主張。このためには公的資金であるODAは、貧困層までなかなか行き届かない教育や保健医療などの社会サービスの提供や、累進課税をはじめとする富の再分配システムの構築の支援にこそ、より高い優先順位を置くべきだと訴えてきた。
ところが開発協力大綱は、途上国の貧困問題の解消を目的に掲げるものの、その手段として「質の高い成長」に大きなウエイトを置く。「貧困層への直接的な支援」はそれに比べて軽視されている。NGOはこのやり方に疑問を呈する。
質の高い成長を、開発協力大綱は「包摂的」で、「持続可能」で、また「強靭性」を兼ね備えた成長と定義する。しかしこのために日本の開発協力がどう変わるべきなのか大綱は触れていない。
成長の果実が社会全体に行き渡り、誰ひとり取り残されない包摂的な成長を実現するにはどうすべきか。NGOは、貧困層や社会的弱者を開発プロセスに参加させ、そのニーズを開発計画に反映される必要がある、と考える。だが途上国の現実をみると、ODAの交渉先である相手国政府のメンバーに貧困層や社会的弱者が含まれていないことはざらだ。
貧困層・社会的弱者を開発プロセスに取り込むには、途上国のNGOと直接対話することが効果的、というのがNGOの主張。そのためには現地のNGO、現地のNGOと太いパイプをもつ日本のNGOとの連携をより強化してほしい、と要望する。
緊急声明のなかでNGOはこのほか、大綱の評価すべき点についても言及した。大綱が女性を「開発の担い手」に位置付け、「開発協力のあらゆる段階における女性の参画を促進すること」を実施上の原則のひとつとして明記したことを歓迎。また、開発教育の目的について大綱が「世界が直面する様々な開発課題の様相およびわが国との関係を知り、それを自らの問題として捉え、主体的に考える力、またその根本的解決に向けた取り組みに参加する力を養うため」と定義し、これを推進すると盛り込まれたことも喜んだ。