一般社団法人広島平和構築人材育成センター(HPC)は11月8日、「平和構築のキャリア形成~国連における文民能力育成をめぐる議論に焦点をあてて」と題した公開シンポジウムを都内の国連大学ビルで開催した。国連ボランティア計画(UNV)、国連広報センター(UNIC)との共催。日本政府は、紛争後の平和構築を国際社会における重要課題のひとつととらえ、「平和構築人材育成事業」を2007年度から進めているが、今回のシンポジウムはこのプログラムの一環。
■平和構築に女性が積極的に参加
第一部では、UNVのフラビア・パンシェーリ事務局長が講演し、平和構築人材育成事業について「アジアからの参加者は2012年までに13カ国82人に上っている。また日本からの参加者の半分が女性であることは、国連の立場からしても重要な要素」と評価した。
パンシェーリ事務局長は、国連平和維持活動(PKO)に派遣されている文民専門家の約3分の1が国連ボランティアだと指摘。「国連ボランティアの活動は、地元のコミュニティーと前向きにかかわることが不可欠だ。平和構築の専門家を育成するのに寄与できる」と意義を述べた。
パンシェーリ事務局長はまた、平和構築人材育成事業で派遣された日本人研修員(国連ボランティア)の評判の高さにも言及。「キプロスと南スーダンで研修員らが、市民社会と前向きにかかわっていく姿勢は素晴らしい」とたたえた。
さらに平和構築と開発が互いに重要な達成要件になっていることに触れ、「平和なくして開発はない。開発なくして平和もない」と相互関係の重要性を強調した。UNVは今後2年、この事業で派遣される人材を国連ボランティアとして受け入れていくという。
続いて、平和構築の担い手としての文民専門家の強化について、国連事務総長に2011年に提出された「ゲエノ・レポート」の実務的対応を進めているクリストファー・コールマン国連文民専門家能力強化プロジェクト部長が登壇。文民専門家をサポートするため、国連が掲げる優先行動指針について以下の内容を強調した。
1)当該国(紛争国)の主体性と能力を尊重すること
2)「安全」「法の支配」「国の制度づくり」「経済復興」「政治的決定過程」の5つの分野について、その計画と現状の違い(ギャップ)を明確にすること
3)国連と供与国(ドナー国)の文民ネットワークシステムを構築し、経験を共有するこ
■「選択肢」を与える専門家が必要
第二部では、「オーナーシップ」「パートナーシップ」「専門家の派遣」の3つのテーマについて、研修者や実務経験者が自らの経験を踏まえ、問題点などを議論した。
国連人道問題調整事務所(UNOCHA)の政策計画・分析部門チームリーダー、ラフール・チャンドラン氏は、平和構築活動はコミュニティーの合意のもとで進めることが重要だと強調した。専門家の役割については「答えを出す人ではなく、選択肢を与えられる人が必要」と指摘した。
東ティモールとネパールで武装解除の専門家として活動した国連開発計画(UNDP)駐ネパール代表事務所のアドバイザー、デズモンド・モロイ氏は、ネパールでの武器解除の過程でオーナーシップをローカルに委譲することの難しさを指摘。いかにコミュニティーを取り込み、委譲の過程の中で、ローカルとの線引きを行うかが重要な課題になると述べた。
コソボで国連児童基金(UNICEF)に勤務していた高橋千絵氏は、オーナーシップについて「コソボ教育省の中間管理者層が自ら作成した教育の長期プログラムは非常に時間がかかったが、オーナーシップという意味からは効果があった」と述べ、さらに「能力強化そのものは相手には要求できず、また能力を補うことは時間がかかる」と指摘した。
コールマン国連文民専門家能力強化プロジェクト部長は、オーナーシップについて「政策レベル」「制度作り」「国際的な和平合意の検証」の重要性を力説。制度作りについては「当該国の公務員の権限を保ちながら、外部から選択を示すことが必要」と述べた。
また南スーダンで国連のフィールド事務所も立ち上がっていない環境で勤務していた国連地域開発センターの上城貴志氏は、出張ベース・アドホックベースで業務を行う限界を指摘。パートナーシップとして他のNGOからアドバイスを求めることもあったと述べた。(保田道雄)