「政府はないも同然だ」。ネパールで4月25日に地震が発生してから2週間が経った5月9日の夜、首都カトマンズ近郊の小さな町に住むネパール人女性(30代)から、怒りのメッセージがフィリピン在住の私のもとに届いた。
怒りの矛先は、救援物資を独占し、貧しい人々のもとへ届けようとしない地元の政治リーダーや金持ち、「海外から物資が届いているにもかかわらず、それを国民に分けようとしない」政府に対してだ。「もし私が銃を持っていたら、(政府の人間を)殺してやりたい」。いつもは温厚な彼女の激しい言葉に、農村部で暮らし、物資も届かないネパール人のいら立ちや政治不信を垣間見た。
この女性が暮らすのはカトマンズから南へ7キロメートルのところにある町ゴダバリ。この町では地震により約1300軒あった家のうち、彼女の家を含む約800軒が全壊または半壊したという。家を失った人々は、政府から届けられた竹製またはプラスチック製の小さなテントと、10キログラムのコメを糧に生活している。テントも、寝るためのマットも、薬も不足した状態だが、政府からの追加支援はなし。毎日3~5回の余震が続く上、ここ数日は激しい雨が降り続き、「状態は最悪」だという。
壊滅的な状況に拍車をかけるのが、貧しい人々まで物資が届かない現実だ。町にはいくつかの政党があり、物資を受け取るのは彼ら。政党の幹部らはまず自分の近親者や金持ちに物資を分け与えるのだという。もっとも苦しいのは、弱い立場の貧しいシングルマザー。物資が配られることはなく、「女性の人権なんて、今のネパールにはない」と憤る。
女性は「食べ物をみんなで分け合い、飢えをしのいでいる。だがあと2週間ほどで雨季がやってくる。みんなで一緒に住める家をせめて建ててほしい」と訴える。そのためには少なくとも1万ドル(約120万円)が必要だという。
「じゃあ、私が寄付を呼びかけようか」。私の申し出を彼女は断った。「今は、私自身がお金を受け取れる環境にないし、政府やNGOも信用できない」。彼女の恐れる雨季はもう、すぐそばまで迫ってきている。