「水牛買って畑を広げれば娘は大学に行ける!」、フィリピンのマイクロクレジット機関PSHFで起業する女性

サトウキビ畑のためのローンを申請している女性とその家族。両親にはさまれた白いシャツの女の子が高校を首席で卒業した娘

「サトウキビ畑を大きくして、子どもが大学に進学できるよう貯金したい」。生き生きとこう夢を語るのは、フィリピン・ネグロス島サンタカタリナに住む33歳の女性。この町でマイクロクレジット(小口融資)を提供するNGO「フィリピン・セルフ・ヘルプ・ファンデーション(PSHF)」から1000ペソ(約2700円)を借り、カラバオ(水牛の一種。畑を耕すのに使う)と農具を購入する予定だという。

「畑の面積を広げられれば、サトウキビの収穫量も増やせる。この3月に小学校を首席で卒業した娘が大学に進学できるようお金を貯めたい」。1000ペソの返済は、収穫期になって収入を得られてからスタートし、月に100ペソ(約270円)以上、11カ月かけて返済する予定だ。

この女性は以前も、PSHFから2000ペソ(現在のレートで約5400円)を借り、サリサリストア(自分の家の軒先に小さな窓を設け、日用品やスナック、飲み物などを売る小さなコンビニ)を姉と起業したことがある。今回は2度目の挑戦となる。

■冷蔵庫の購入で利益が2倍に!

サンタカタリナのような田舎町では、農業が中心で、好調なフィリピン経済の恩恵は都市のように受けられず、貧困は残ったままだ。自立を促しながら収入の向上を目指すマイクロクレジットが果たす役割は大きい。フィリピンには伝統的に「5-6 システム」(5ペソを借りて6ペソ返す、の意)と呼ばれる借金の方法がある。ただこの場合、4週間以内に利子20%を含めて返済する必要がある。1世帯当たりの平均的な日収が200~500ペソ(540~1350円)という暮らしをするサンタカタリナの人たちにとって、この金利の高さと返済期間は貧困をむしろ助長するといえなくもない。

PSHFのマイクロクレジットでは、借り手は収入が入ってから返済を始められるというメリットがある。これは、起業資金を得たい低~中所得者にとって好都合だ。PSHFの融資額は1件当たり1000~3000ペソ(約2700~8100円)で、予定通り返済できた場合の利子は15%、遅れた場合は20%。ちなみに期限が何年過ぎても20%を超えることはない。

PSHFのマイクロクレジットを活用し、ビジネスを立ち上げ、成功した例はたくさんある。食堂を経営する女性は1800ペソ(約4800円)で中古の冷蔵庫を購入。氷や冷たい飲み物を売ることができるようになった。加えて、少し離れた市場で購入する食材を保存できるようになったことでまとめ買いが可能になり、1日の利益が100ペソ(約270円)から200ペソ(約540円)に増えたという。

また別の例では、1300ペソ(約3500円)のオーブンを購入し、1切れ10ペソ(約27円)のピザを1日平均64切れ(8枚に相当)売るようになった女性もいる。子ども2人を含む家族3人の生活を支えることも可能になった。

■ボホールやセブにも拡大

PSHFは1987年から、「貧しい人に夢をかなえる機会を与える」ことを目標に、貧困家庭に対して教育ローン、治療費のローン、一般的なローンの3種類を提供し始めた。ネグロス島からスタートしたこの活動はいまや、ボホールやセブなど別の島にも拡大。フィリピン人スタッフが中心となって事業を営む。ネグロスオリエンタル州のサンタカタリナとその周辺地域では現在、フィールドワーカー1人とマネージャー1人が75のプロジェクトを回している。