【ガーナNOW!女子大生は見た(8)】経済発展の陰で悪化する「水問題」、蛇口をひねって出るのは週数回!?

貯水タンクから水をくむガーナ大学の寮生たち。行列ができる

ガーナで生活する私の頭を最も悩ませる問題が、頻発する「断水」だ。ガーナ大学の寮では蛇口から水が出ないことは日常茶飯事。学生は常に、大きなバケツに水を貯め、それを使っている。今回は、首都アクラ市(グレーター・アクラ州の州都)とその周辺の水問題を調べてみた。

ガーナ大学のジョセフ・コフィ・テー上級講師によると、ガーナ水道会社が供給する水の20〜40%は“消えている”という。水の盗難、水道管の破損(漏水)、使用料の未払いなどが理由だ。早い話、水問題は単なる「水不足」ではなく、インフラの不備や維持管理のまずさなど、複雑な要素が絡み合っている。

■貧困層のほうが高い水代を払う、富裕層の3倍!

アクラ市とその周辺では、水が供給されていなかったり、また供給されても週に数回という地域がざらにある。こうした地域の住民は、個人営業の「水商人」から水を買うか、隣人から水をわけてもらうか、井戸を掘るか、ボアホール(手掘りの井戸と違い、ドリルで掘った深い穴)を掘って地下水をくみ出すなどの対策をとることになる。

カナダに拠点を置く民間シンクタンク「センター・フォー・インターナショナル・ガバナンス・イノベーション」が2012年に、グレーター・アクラ州のテシとアシャイマンで実施した調査によれば、住人の47%が水の調達先を「水商人」と答えた。「地域や公共の貯水タンク」は15%、「自宅の水道」はわずか4%だった。これは公共の水道サービスがほとんど当てにならないことを意味する。ちなみに日本の給水普及率は97.5%(2011年)だ。

水商人らが売る水の値段は、水道料金より高い。2008年から水供給が不安定になったアクラ市郊外のアデンタで暮らす3世帯に話を聞くと「蛇口からは月に数回しか水が出ない。だから水商人からいつも水を買っている。水代(飲み水も含む)は月に約160セディ(約6300円)かかる」と言う。

これに対してテマ(アクラ市近郊の商業地区)に住む富裕層の世帯の水代は1カ月約50セディ(約2000円)。皮肉なことに、貧困層のほうが富裕層よりも3倍高い水代を払うという「不平等な現実」がある。

テー上級講師によると、水道管に接続するには初期費用として最低1000セディ程度(約4万円)が必要だ。これはつまり、貧困層は水供給が安定的な場所に住んだとしても、初期費用を負担できなければ、水道を使えないことを意味する。

対照的に富裕層は、水供給が不安定な地域にいても、ボアホールを自宅に掘り、水を得ることが可能だ。ボアホールの建設費用は約7000セディ(約28万円)と高い。貧困層にはとうてい手が届かない。貧富の差がそのまま、水へのアクセスの差につながっている。

■アクラ市の人口、02年の180万から25年は倍増

水供給はなぜ、こんなに不安定なのだろうか。この背景を探ると、第一に、アクラ市と周辺地域への急速な人口流入が浮かび上がる。人口急増でインフラ整備が追い付かないのだ。

アクラ市の人口は右上がり傾向にある。2002年の180万人から2009年は230万人に、国連人間居住計画(UN-Habitat)によると、2025年には330万人に達するという。流入者の多くは、都市計画のない場所に住み着く。こうした地域は当然、インフラも未整備だ。

商業地区のテマやアクラ市中心部は、人の流入を見越し、開発計画を進める。こういった場所には必要なインフラが整備されているが、住民の多くは富裕層だ。

第2の理由として、水道管への違法な接続がある。ガーナ水道会社が供給する水の2~4割が給水プロセスで失われるが、この中で大きなウエイトを占めるのが違法接続。公の水道管を壊して自宅に引いたり、老朽化した水道管の割れ目から吹き出る水を使ったりするケースがポピュラーだ。こうした人たちは水道代を払わない。水の違法な利用は、水道会社にとって大きな損失となる。

ガーナ政府はこれまで、水道管への違法な接続を取り締まろうと躍起になってきた。テー上級講師によれば、取り締まり強化が奏功し、“失われる水”の割合(推定)も、90年代の40%から2013年には24%まで改善された。ただ水道管への違法な接続を完全になくすのは難しい。「水道会社の職員が賄賂をもらい、便宜を図るケースもあるからだ」とテー上級講師は説明する。

また水道管に合法に接続している市民の中にも、水道代を払わない人もいる。水が安定供給されないのが理由だ。

アデンタに家族8人で住む女性はこう語る。「6年(2008年)くらい前から、水の供給が減っていった。最初は毎日、蛇口から水が出ていた。それが1週間に4回になり、2回になった。今は月に1、2回。私たち(アデンタの住人)は『水道代を払わない』と苦情を言うようになった。すると水道会社の人は料金の請求をためらい、2年(2012年)前からは請求に来なくなった」

ガーナ水道会社は、水道料金を徴収できないから慢性的な収入不足に直面している。予算がないから水道管をメンテナンスできず、老朽化は進む。人口が増えても水道管を拡張できない。十分なサービスを提供できないので、市民は水道料金を払ってくれない。水道会社はますます資金不足に苦しむ‥‥。出口のない悪循環に陥っているのが現状だ。

■一朝一夕に改善しない水供給、民営化・プリペイド形式‥‥

この悪循環を断ち切ろうと、ガーナ政府は1980年代初めから、国際機関の援助を受け、さまざまな改善策を打ってきた。2006年には水道セクターの一部を民営化。オランダと南アフリカの共同企業体アクア・ヴィテンス・ランドが、5年にわたって都市部で水供給する契約をガーナ水道会社と結んだ。

この民営化には、水供給のマネジメントを効率化し、より多くの貧困層が水へアクセスできるようになることが期待されていた。ところがロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)のマルジャ・ヒルヴィ教育助手(ヘルシンキ大学博士課程在学中)の調査(2012年)によれば、民営化以前と比べて水へのアクセス状況は変わっていないという。

ガーナ水道会社は2014年、水道料金の支払いにプリペイド方式を導入すると政府に提案した。料金の未納を防ぎ、収入を向上させるのが狙いだ。だが現時点ではまだ政府の承諾を得ていない。「貧困層の水へのアクセスを悪化させる」と市民団体はこのやり方に反発している。

プリペイドにしたところで、水供給が不安定な地域がすぐになくなるわけではない。水道会社の収入が向上し、水供給のマネジメントが改善され、サービスの質が向上するまでには長い年月がかかるのは目に見えている。「みんなが水のことを心配せずに暮らせる。そんな当たり前のことが、私たちの政府にはできていない」とガーナ大の友人は切実に訴える。(矢達侑子)