青年海外協力隊として私が暮らすドミニカ共和国で、珍しい名の伝染病「チクングンジャ熱」が大流行している。ドミニカ共和国政府は5月から、国中で注意を喚起しているが、汎米保健機構(PAHO)によると、6月21日までに8万9738人が発症。チクングンジャ熱はネッタイシマカやヒトスジシマカが媒介するのもので、症状は、高熱をはじめ、「骨折したのかな?」と思うほどの全身の骨の痛み、皮膚に現れる赤い斑点などがある。今回は、チクングンジャ熱がこの国に起こしている“社会現象”について書いてみたい。
「チクングンジャって何語なの。中国語、それとも日本語?」。この伝染病が流行してから、こんな質問を私は何度も受けた。調べたところ、チクングンジャという言葉は、アフリカのマコンデ語(マコンデ族はタンザニア南部やモザンビーク北部で暮らす)の「曲げるもの」に由来していた。体をかがめて関節の痛みに耐えることからこの名が付いたという。
おもしろいのは、言葉の響きが新鮮だからだろう、ドミニカ共和国でチクングンジャが流行語になっていることだ。私が活動するプエルトプラタ県ロスイダルゴスという人口1万4000人の町でも、1日に20回以上はチクングンジャという言葉を聞く。大学では、本当かどうかはさておき、学生たちの講義の欠席の理由はチクングンジャ熱というのがお決まりだという。
それだけではない。流行に便乗して歌までできた。ドミニカ共和国の伝統的なリズムであるメレンゲに乗せた「チクングンジャの歌(La Chikungunya)」が動画サイトにアップされ、人気を呼んでいるのだ。「アーイ、アーイ、チクングンジャにかかるとすごい痛みだ、老若男女誰でもかかる」という歌詞と明るいリズムの奇妙な組み合わせに私は呆れてしまった。
チクングンジャ・ブームに飽き飽きしていたさなか、私も先日、ついに感染してしまった。首や肩、肋骨が痛み出し、筋肉痛のようなものを感じ、熱が急激に上がった。焼けるような体の熱さと全身の痛みで眠れない。睡眠不足の朝の光で見た、何百もある全身の斑点に自分の目を疑った。「ああ、これが症状だ」
チクングンジャ熱にかかった翌日、私は、配属先のロスイダルゴス市役所の同僚(20代女性)に「チクングンジャのため仕事を休むから」と伝えた。すると、彼女も「私もチクングンジャで休んでいるのよ」。チクングンジャ熱が身近にまん延している事実に驚いた。
私の体調はいまだ熱が安定せず、全身の斑点は依然として改善していない。いまもドミニカ人は面白がってチクングンジャという言葉をひんぱんに使う。私は、チクングンジャでいまだに盛り上がる人たちの話が聞こえてくるベッドの上で思った。チクングンジャ・ブームが一刻も早く去って、平穏な日が戻って欲しい、と。(種中 恵)