【ドミニカ共和国de協力隊(4)】ドミニカ人の強さの秘訣は“プラタノパワー”!? バナナ料理の多様さに驚く

食べごろのプラタノが収穫されると大喜び

ドミニカ共和国の人たちの食卓に欠かせないもの、それがプラタノ(調理用バナナ)だ。私は日本でデザートとしての甘いバナナしか食べたことがなかったが、この国で暮らして驚いたのは、バナナ(といってもプラタノだが)をいろんな形に料理すること、またプラタノに対するドミニカ人のこだわりが強いことだ。“知られざる文化”がそこに眠っていることに私は気づいた。

プラタノの代表料理といえばフライだ。「プラタノフリート」と呼ぶ。家庭ではもちろん、レストランでも付け合わせとして出されることが多い。味は甘くなく、いわゆるバナナフライとは違う。むしろポテトフライのような感じで、ジャガイモ以上に歯ごたえがあるのが特徴。塩やケチャップを付けて食べる。

プラタノフリートの作り方は簡単だ。しっかり二度揚げして、その後に平たくするだけ。プラタノフリートを平たくつぶすためだけの調理器具(マハドール)もある。一家に1台とまではいかなくても、これを常備している家庭は珍しくない。

ゆでたプラタノも人気だ。こちらは主食になる。一緒に食べるのはスクランブルエッグやチーズ、サラミなど。酢がベースのタマネギソースをかけてもおいしい。ボリューミーで、腹持ちは抜群。味が淡泊だからか、毎日のように夕食に出てくる。

スーパーマーケットのお菓子コーナーに行けば、ポテトチップスの隣には「プラタノチップス」が置かれている。これはビールのつまみに最高。このほか、プラタノをつぶし、マッシュポテトのような食感にした朝食の定番「マングー」、ペースト状にした甘いプラタノにチーズをたっぷりのせたグラタン「パステロン」、ペースト状にしたプラタノをチチャロン(豚の皮を揚げたもの)と一緒に炒めた「モフォンゴ」などもドミニカ人は大好きだ。

プラタノのすごさは、付け合わせから、おやつ、主食にまでなんにでも変身すること。どこにでも実るうえに、クセのない味、さらに調理するうえでの万能さも手伝ってか、ドミニカ共和国では3食すべてがプラタノという日もざらにある。膨大な消費量に、ドミニカ人の体はプラタノでできているのではないか、とまで感じてしまう。

でも飽きないのだろうか。私はドミニカ人に疑問をぶつけてみた。「私は正直、プラタノばかりだと辟易するだけど、ドミニカ人は毎日プラタノを食べても嫌じゃないの?」

すると次のような答えが返ってきた。「プラタノを食べないと力がわいてこないんだ」(30代男性)、「ドミニカ人はプラタノを食べるから強いんだ」(20代男性)。調べてみると、プラタノには炭水化物やビタミン、リンなどの栄養分が多く含まれ、消化の吸収が良くエネルギーに素早く変わることがわかった。ドミニカ人のプラタノ神話も理に適っているかも知れないと妙に納得した。

おもしろいのは、がっしりした手でプラタノをつかむ絵とともに「プラタノパワー」の文字が刻印されたTシャツをドミニカ共和国のどこの土産物屋でも売られていること。私は当初、このTシャツの意味がまったくわからなかったし、なにがプラタノパワーだ、と思っていた。ところがこの国で暮らして半年、不思議なことに、プラタノを食べない日は私自身も元気が出ないような気がしなくもない。

ドミニカ共和国といえば、世界屈指の野球大国でプロリーグもあるのはご存じだろう。野球選手があるときヒーローインタビューでこう叫んでいた。「ドミニカ野球の強さの秘訣?プラタノを毎日食べることさ!」。このフレーズはメディアにも取り上げられ、ちょっとしたブームとなった。

私がいま気がかりなのは、このプラタノ文化は将来廃れていかないかどうかという点。日本は終戦後、食の“国際化”が一気に進み、コメ離れが加速していった。代わって人気なのはパンやパスタだ。

スペインに200年以上支配されたドミニカ共和国。ドミニカ文化の土台からしてヨーロッパの影響を受けているだけに、世界のさまざまな食文化が流入した日には、この国の愛国食プラタノはどうなるのだろうか。ドミニカ人の力の源でもあるプラタノは“世界平準化”の流れに淘汰されず、ずっと生き残ってほしいと私は願う。(種中 恵)