【ニッポンで働くアジア人たち②】グーグル・ジャパンにヘッドハンティングされたフィリピン人、次は日本から世界へ羽ばたく

グーグル・ジャパンが入っている六本木森ビルタワー(東京都港区)の正面玄関前に立つリア・レイエスさん

「脱欧入亜」――東南アジアの人たちはいまや、日本の労働市場の一端を担うまでになった。この不定期連載では、東南アジアから日本に渡り、東京近辺で働く若者を紹介し、日本から“近くて遠い国”と揶揄(やゆ)される東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々との関係を見つめ直したい。

「グーグル・ジャパンで働いてみないか」。日本のコンサル会社で働き始めて3年が経った2010年5月、リア・レイエスさん(34)はリクルート企業を通じてグーグル(本社・米国カリフォルニア州)のジャパン・オフィス(東京都港区)へヘッドハンティングされた。1年の契約期間を経て、正社員として登用。現在は、人事部で採用を指揮し、日本人応募者への英語の面接で、適正を直接判断する仕事などを担当している。

「4月からシンガポールで働く予定です。グーグルのアジア太平洋地域の仕事を任されることになったので。日本で働いた11年ですばらしいキャリアを形成できました。他の国で働けるのが楽しみです」とレイエスさんは目を輝かせた。

レイエスさんは、フィリピンの一流大学、フィリピン大学ディリマン校(マニラ首都圏ケソン市)の経営学部を2000年に卒業し、国内の不動産会社に入った。取引先の多くは外国人投資家で、日本人も混じっていた。そこで、英語の話せない日本人たちに出会った。「なぜ、日本人だけ英語が話せないのだろうか」と不思議に思うと同時に、「日本語を覚えたら大きなキャリアアップになるはず」と日本行きを決意した。初めての外国だったが、東京と大阪に、きょうだい2人が先に働きに出ていたため、不安は少なかった。

都内の語学学校で1年間、日本語を学んだ後、翻訳会社とコンサル企業でそれぞれ3年間働いた。「日本の一般企業には、外国人にとって不慣れな習慣がたくさんあります。名刺交換の際のお辞儀の角度から、トイレに行く時間帯、上司と部下の関係‥‥。それでも、(母国の)フィリピンに比べたら、ビジネスチャンスはあふれています。日本に来なかったら、私はきっとフィリピンで普通の主婦になっていたと思います」

フィリピンの失業率はここ数年、7%台の高水準で推移している。海外からの魅力的な投資先とされ、国内総生産(GDP)は2012年に6.8%、2013年に7.2%と好調ぶりを見せるが、国内には300万人を超える失業者を抱えている。

レイエスさんは来日する前、東京で働いている兄から「日本は先進国だが忙しい国」と聞いていた。しかし「想像した以上の忙しさに驚いた」と苦笑い。また、「(フィリピンで英語の話せない日本人に出くわしていたが)先進国なのに、ほとんどみんなが英語を話せないのはショックでした。フィリピンは途上国ですが、多くの人が英語を話せるので、不思議に思いました」と日本に抱いていたイメージの変化を語った。

フィリピンでは、英語が公用語のひとつになっている。長く米国の植民地だったため、いまでも教育やテレビも英語中心。日常生活に英語が深く入り込んでいる。このため、慢性的に高い失業率を背景に、語学力を生かして海外に出稼ぎに出る就業者(OFW)は多く、2010年時点で約940万人を数える。

「遠い将来のことですが、いつかは自分のビジネスを持ってみたいです。今はコンサル関係に興味があります。シンガポールで少なくとも2年は働く予定ですが、また日本に戻ってきます。3月、ようやく日本の永住権が取れたので、将来的には日本でビジネスをすることになるかもしれません」。母国を飛び出し、日本でチャンスを掴んだレイエスさん。「どんどん自分でチャレンジすることが大事です」と話す彼女の挑戦は続く。(篠塚辰徳)

2013年は、日本とASEANの交流40周年という節目の年だった。厚生労働省によると、2012年10月の時点で、外国人労働者数は64万9982人。1993年の9万6528人から、約7倍に激増したことになる。国別では、中国、韓国、フィリピン、ベトナムなどアジア勢が目立つ。

近年は、「脱欧入亜」という言葉が広まり、ビジネスでも政治でもアジアを重視する見方も強まっている。一方で、2004年の世論調査(内閣府、回答者2075人)では、「外国人労働者が増加していると感じるか」との質問に、45.6%が「ほとんど感じない」「あまり感じない」と答えた。外国人労働者に対する日本人の意識の低さがうかがえる。