イスラム神学校が女子を受け入れ! 貧困層への「教育機会」を考える

“テロリスト養成所”と非難されてきたイスラム神学校(マドラサ)。だが適切に運営すれば、貧しい子どもたちに教育の機会を与え、貧困の連鎖を断ち切るきっかけになりうる。バングラデシュでの取り組みと、アフガニスタン、パキスタンの現状をアルジャジーラは3月13日付記事で取り上げた。

■バングラの識字率、女子が男子を上回る

バングラデシュ政府は、これまで男子しか入学できなかったマドラサに対して、女子を受け入れるよう働きかけてきた。その結果、2011年には女子の識字率が男子を上回った。国連児童基金(UNICEF)の最近のデータによると、15~24歳の識字率は、男子77.1%、女子88.4%。女子の方が10%以上も高い。マレーシアのマラヤ大学のナイズ・アサドゥラ教授は「マドラサが女子を受け入れることで、女性の就業率は向上する」と評価している。

マドラサには学校として公認されているものとされていないものの2種類ある。バングラデシュでは非公認のマドラサの存在が問題になっている。非公認のマドラサは、宗教以外の学問を学ぶ機会を十分に提供していないからだ。こうしたマドラサが反社会的な活動の温床になるといわれる。

バングラデシュでは公共教育は無料だ。ところが入学の際に賄賂が要求されるケースは少なくないという。教員も不足している。こうした事情から非公認のマドラサであっても貴重な教育の場になるという現状もある。マドラサの授業料は無料、またはわずかな額だ。

バングラデシュを含む南アジアではかねて、マドラサが貧しい子どもたちの教育の受け皿になってきた。アサドゥラ教授は「マドラサか、普通の学校に通うかの決定には、宗教的な要素だけでなく、世帯収入など経済的な要因が大きく関係している」と説明する。

■教育に保守的なアフガン、西洋・イスラム折衷案が必要?

マドラサが提供する無料の教育と無料の食事は、アフガニスタンの貧しい家庭にとって大きな魅力だ。だだ、子どもたちが将来職を得るための教育は十分ではないという側面もある。

アフガニスタン・アナリスト・ネットワークのボーハン・オスマン氏は「現代的な学校は、仕事を得るための技能を身につけさせることが比較的できている。十分とは言えないが、マドラサよりはずいぶんマシだ」と指摘する。

アフガニスタンの人たちは、バングラデシュとは対照的に、教育に保守的といわれる。とりわけ女子が教育を受けることにその傾向が強い。パシュトゥン人が多く住む地域は特にひどく、通学する女子や教師が攻撃されることもある。教育システムが、宗教的過激派や保守的な思想の圧力にさらされているのだ。

「アフガニスタンの教育システムを効率的にする唯一の方法は、西洋式教育とそれに反対する立場との間に妥協点を見つけること」と同ネットワークのクラウディオ・フロンコ氏は話す。

■パキスタンの教科書、700年前から変わっていない

パキスタン政府はこのほど、マドラサを政府の教育システムの管理下に置くと決定した。過激派の鎮圧が目的だ。

マドラサと過激派の関連性を考えるうえで、ひとつ参考になるアンケートがある。カシミール地方の領有権をパキスタン、インド、中国が主張する「カシミール紛争」の解決策を尋ねたアンケートによれば、マドラサで学ぶ生徒の60%が「戦争で解決すべき」と回答。英語で教育をする学校の生徒の26%を大きく上回ったのだ。

国際宗教の自由に関する協議機関(USCIRF)が2011年に発表したレポートによると、マドラサで使う教科書のほとんどが500~700年以上前に作られたもの。このため数学や科学、英語の教育が不十分で、大学への進学や就職は難しい。ただその一方で、パキスタンでも、マドラサは貧困家庭にとって教育のセーフティネットになっている。マドラサの生徒の88%は貧困家庭から来ている。

マドラサの運営者や宗教指導者らは、教育カリキュラムを現代的にアレンジすることに強く反対している。だが進歩もある。米国ワシントンのNGO「宗教・外交のための国際センター」(ICRD)はここ10年で約4000人のマドラサの教師と話し合った。その結果、教師らは現代的な考えをもつようになってきたという。

パキスタンでは、マドラサだけではなく公立校の教育でも、宗教的マイノリティ(非イスラム教徒。主にヒンドゥー教徒やキリスト教徒)への差別を助長する教育を続けている、とUSCIRFのレポートは指摘する。(西森佳奈)