ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)はこのほど、サウジアラビア政府が人権活動家を弾圧している実態を明らかにする報告書「越えてはならない一線への挑戦:サウジアラビアの権利活動家たちの物語」を発表した。弾圧の標的となってきたのは、国民の政治参加や司法改革、女性・マイノリティへの差別撤廃などを求める活動家ら。こうした活動家らを政府当局は逮捕や訴追で黙らせようとしている。
報告書によると、サウジアラビアの活動家らは、オンラインのニュースサイトやブログ、ツイッター、フェイスブックなどのソーシャルメディアを駆使し、政府の人権侵害を批判キャンペーンを展開している。そのひとつが、車を運転するよう女性を励ます運動「ウィメン・トゥー・ドライブ」だ。サウジアラビアでは、女性が車を運転することは禁じられている。
人権運動の盛り上がりを警戒してサウジアラビア政府は2011年初めごろから、活動家への弾圧を強化してきた。やり方は、渡航禁止、懲戒免職、中傷キャンペーン、逮捕、訴追などだ。起訴なしで、数カ月にわたって拘禁することもあるという。
このほか、新たな人権団体の設立を許可せず、「無認可団体の設立」を理由に活動家らに長期刑を科すケースも明らかになっている。犯罪容疑は「統治者に対する忠誠違反」「王国の評判失墜の画策」など恣意的で、HRWは「表現・結社の自由に侵害するもの」と非難している。
サウジアラビアには成文刑法がない。このため量刑は、イスラム法(シャリーア)の2大法源である「コーラン」と「スンナ(預言者ムハンマドの慣例)」に対する裁判官の解釈に委ねられるのが実情だ。HRWによると、人権活動家が政治犯罪で訴追された場合、テロ関連の事件を扱う特別犯罪法廷で裁かれるのが一般的。この法廷は、弁護士へのアクセスなど、公正な裁判のための基本的な権利を保障せず、非公開で判決を出すこともあるといわれる。
こうした事態を懸案するHRWは「非暴力の活動家に対する広範な弾圧をサウジアラビア政府は即時停止し、表現・結社・信仰の自由を平和的に行使しただけで有罪を言い渡された人たちを全員釈放すべきだ」と主張する。
これ以外にもHRWはサウジアラビア政府に対し「表現・結社の自由を犯罪としない成文刑法を制定すること」「政府の不当な干渉を受けずに、団体の設立・活動を認める結社法を制定すること」「電子ネットワークの制限など表現の自由に過度に干渉するすべての法律と規定を撤廃すること」――といった司法改革を働きかけている。
国連は2013年11月、サウジアラビアを国連人権理事会の理事国に選んだ。この決定についてHRWは「サウジアラビアの理事国就任は、非暴力の活動を弾圧されている国内の活動家たちに誤ったメッセージを送ることになってしまった」と批判している。
(堤環作)