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人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は1月21日、世界の人権状況を評価する年次報告書「ワールドレポート2014」を発表した。このレポートは90カ国以上で2013年に起きた主な人権問題を取り上げているが、悪化の一途をたどるシリア紛争をとりわけ懸念。「シリア政府は民間人を殺害しながら戦争を続けている。反政府勢力も人権侵害にますます手を染めた。2013年は悲惨だった」と指摘し、そのうえで「国際社会の指導者らは、この残虐行為を止めて責任を問うための十分な圧力をかけなかった」と総括した。
■安保理を骨抜きにしたロシア・中国
HRWが問題視するのは、シリア紛争に対して国際社会が有効な手立てを打てなかったことだ。ケネス・ロスHRW代表は「ロシア、中国両政府は国連安全保障理事会を骨抜きにし、シリア紛争の両陣営が民間人を殺害してきたことを見過ごした」と批判する。
ロシア政府は、中国政府の支持を得て、シリア政府(アサド政権)が国連での国際的な制裁(名指しでの非難、武器禁輸措置、国際刑事裁判所=ICCへの付託など)の対象にならないよう動いてきた。反アサドの米国政府も、自国の都合からICCでの訴追を目指すことに消極的だった。
紛争を後押しするかのように、他国からの武器・資金援助も止まらなかった。イラン政府とヒズボラ(レバノンのシーア派イスラム組織)はアサド政権を支援しているとされる。
泥沼化するシリア情勢を見るにつけHRWはワールドレポートのなかで「保護する責任」という概念を引用。この概念は「自国民を保護できない国家に対しては国際社会が残虐行為から弱者を守る責任をもつ」という意味だが、シリア国民への保護する責任はまったく果たされなかった、と述べた。
その一方で、保護する責任が効果を見せたのがアフリカだ。中央アフリカと南スーダンでは、アフリカ連合(AU)、フランス、米国、国連が、民間人の虐殺を防ごうと国際ミッションを増派した。また、友好国の働きかけと国連平和維持部隊の増援が圧力となって、ルワンダ政府は、コンゴ民主共和国東部で残虐行為を繰り返す反政府勢力に対し、これまで続けてきた軍事支援を停止している。
ワールドレポートは、深刻な残虐行為が予想される場合、それを防ぐにはまだ不十分だが、アフリカに限っていえば、2013年は「保護する責任で前進があった年」と評価している。
■民主主義の仮面を被る国で抗議多発
これ以外の2013年の特徴は、多くの政府が「民主主義」を口で唱えながら、その核となる「人権尊重」を怠っていたことが浮き彫りになったこと。トルコやタイ、ウクライナ、エジプトなどで抗議行動が起きた、または現在も継続していることは記憶に新しい。
真の民主主義国家は、反体制派や少数派の権利も保護する義務がある。逆にいえば、多数派の意思であっても制限されるケースがあって当然だ。ロス代表は「民主主義の仮面を被る政権は、この基本原理を無視した。政府は、言論の自由を尊重し、社会でつまはじきにされている少数派の権利も擁護しなければならない」と訴える。
HRWはまた、米国の中央情報局(CIA)と国家安全保障局(NSA)の元局員エドワード・スノーデン氏がイエメンとパキスタンで米国が計画していた暗殺作戦にかかわる情報を暴露したことについても言及。テロとの戦いで生じる人権侵害を隠蔽しようとした米国の企みは揺らいだ、と指摘した。
人権保護に向けた良い動きとしては、多くの国でこれまで労働法の適用外とされてきた家事労働者(家政婦)に労働権を保障する「家事労働者条約」が2013年9月5日に発効したこと、水銀汚染による健康被害の防止を目指す「水銀に関する水俣条約」が同10月に採択されたことを挙げた。(堤環作)