ジェネリック薬の生産拠点インドに圧力かける米・日・EU、国境なき医師団が“インド支持キャンペーン”

ジェネリック(後発)医薬品の世界随一の生産基地であるインドに対し、米国、日本、スイス、欧州連合(EU)が医薬品の特許基準を緩和するよう求めている問題で、国境なき医師団(MSF)は6月11日、インドのモディ首相が圧力に屈しないよう応援するキャンペーンを全世界で開始した。

保健を重視する観点からインドの法律は、医薬品の特許付与(保護)について他国よりも厳しい条件を設けてきた。この環境がジェネリック薬の市場競争を生み、HIV・エイズ薬の価格をここ10年で1万ドル(約1万2400円)から100ドル(約124円)へと劇的に下げた。MSFは世界各地で約20万人のHIV陽性者に治療プログラムを提供するが、使う薬の8割以上はインド製のジェネリック薬だ。

だが先発薬を作る製薬会社にとってみれば、ジェネリック薬の普及は利益が食われることを意味する。このため先進国の政府はかねて、インド政府に対し、「エバーグリーニング」「データ独占権」「特許リンケージ」の3つを認めるよう圧力をかけてきた。

エバーグリーニングとは、製薬会社が既存の薬を「改変」するだけで、特許期間を延長できる仕組み。これが認められれば、製薬会社は永続的に市場を独占できるようになる。

先発薬の臨床データの使用を禁止する「データ独占権」も、先進国がインドに突き付ける要求のひとつだ。ある薬がインドの法律上は特許とならない場合でも、臨床データを製薬会社が独占できれば、ジェネリック薬の開発競争を遅らせることができる。事実上の専売も可能となる。臨床試験の再現は費用もかかるうえ、医薬品規制局も、臨床データのないジェネリック薬は登録できない。

また米政府は、「特許リンケージ」という規制システムを施行するようインド政府に求めている。特許リンケージとは、現状では別々の手続きである「医薬品の登録」と「特許の付与」の2つを関連させ、特許のある医薬品しか登録できなくするやり方。MSFによれば、インド保健省はこの要求に沿った制度改正を検討しているという。

MSFインターナショナルのジョアンヌ・リュー会長は「MSFの活動は、インドが作る適正価格の薬・ワクチン(ジェネリック薬)に支えられてきた。インドが『途上国の薬局』であり続けられるかどうか、世界中が見守っている。MSFはインドを支持する」と明言する。

インドが先進国の圧力に屈し、法律が改正されれば、ジェネリック薬の生産は困難になる。「世界中の数百万人が頼みの綱とするジェネリック薬が入手しづらくなると予想される。製薬会社の利益が人命に優先されるべきではない」とMSFは強く訴える。