食堂屋店主ディノさん(左)と奥さん(右)。会話を楽しみながら仕事をしていた
「おれは貧しい生活を送っていると思ったことはない」。そう語ってくれたフィリピン・セブ島在住のディノさん。35歳。セブ市のカルボンマーケットで食堂屋を営む彼の月収は4400ペソ(約1万円)。この食堂での売り上げが家族を支える唯一の収入源だ。
ディノさんが食堂を始めたのは20歳の頃。14歳の時に結婚した彼は、今でも仲良く奥さんと仕事をしている。ディノさん夫婦には子どもが5人いる。両親と、弟の家族と共に暮らしているので、16人という大家族だ。部屋は、とても16人が生活できるとは思えないような6畳程度の狭い部屋が3つあるだけだ。部屋の中にトイレやシャワーはない。
「生活はギリギリだけど、毎日お腹いっぱいになるまでご飯が食べられる。子どもも学校に通えている。それだけで十分だ」。大家族の大黒柱は、家族を大事にする心優しい人物だった。
セブの台所といわれるカルボンマーケットには、毎日たくさんの人が訪れる。値段も庶民的で、活気に満ちた場所だ。昼夜問わず人が来るし、食料もマーケット内で調達できるため、ディノさんは長らくこの場所で食堂を続けている。
しかし、カルボンマーケットには、多くの貧困層が暮らしているのが現状だ。排せつ物が流されている海で遊ぶ子どもたち、海辺でブルーシートを張って暮らしている人々。奥に進むにつれて、身なりも生活様式もより貧しいものとなっていた。
「贅沢はできないが、他の人たちから見たら、おれは貧しくともなんともない。いい人生を送れている」と笑顔で答えてくれたディノさん。家も狭く、収入も少ないが、彼らは常に支え合い、いつも笑顔を絶やさない。(伊藤駿)