世界ではおよそ8億7000万人が慢性的な栄養不足に悩まされている。これは比率にすると世界人口の8人に1人に相当する。食糧農業機関(FAO)、世界食糧計画(WFP)、国際農業開発基金(IFAD)の国連3機関が、共同で発表した報告書「世界の食料不安の現状2012」で明らかにした。
報告書によると、世界人口に対する飢餓人口の割合は、1990~92年から10~12年までの20年間で18.6%から12.5%に低下した。飢餓人口の数にすると1億3200万人減った計算になる。とりわけ途上国の飢餓人口の割合は23.2%から14.9%へ大きく改善された。
現在の飢餓人口8億7000万人の98%(8億5200万人)が途上国に住んでいる。地域別にみると、アジア・太平洋地域の5億6300万人とアフリカの2億3900万人が大半を占める。ラテンアメリカ・カリブ海地域は4500万人。先進国でも、飢餓状態にある人は1600万人いるという。
20年前のデータと比べた場合、最も劇的な改善を見せたのはアジア・太平洋地域だ。人口が増大したにもかかわらず、経済発展の恩恵をとらえる形で飢餓人口は1億7600万人(率にして3割)減少。飢餓人口の割合も23.7%から13.9%に低下した。ラテンアメリカ・カリブ海地域も、飢餓人口は2000万人減少し、飢餓人口の割合も14.6%から8.3%に下がっている。
対照的に悪化したのが、干ばつにたびたび見舞われるアフリカだ。飢餓人口はこの20年で6400万人、過去4年間だけでも2000万人増えた。飢餓人口の割合は22.9%と依然高く、およそ4人に1人が飢餓という深刻な状況が続く。アフリカ以外では、先進国の飢餓人口も300万人増加した。
飢餓人口は世界全体でみれば右下がりだが、撲滅に向けたペースはスローダウンしている。ミレニアム開発目標(MDGs)は「2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を1990年の水準の半数に減少させる(飢餓人口の割合を11.6%にする)」との目標を掲げているが、報告書は「このまま努力を続ければ12.5%まで削減可能」と、目標値に少し届かないことを示唆している。
ただ、08~09年のリーマンショック不況は、予想外に多くの途上国で経済成長を遅らせることなく、多くの国では脆弱層を食料価格の高騰から守ることに成功したという。
報告書はまた、飢餓の撲滅に向けた方法として「農業の成長」と「セーフティネットの拡充」の2つをポイントに挙げた。全体的な経済成長だけでは飢餓の撲滅には不十分で、貧困層の多くが従事する農業分野をいかに成長させ、雇用を生み出すかが重要だとしている。
セーフティネットでは「社会保護制度」が有効だ。現金の給付や食料クーポンの配布、健康保険などの措置が最も脆弱な人たちにとっては必要不可欠。こうした制度は、脆弱層により良い教育を提供し、より強く、より健康な成人を育成することにもつながるため、長期的にみれば飢餓の連鎖を断ち切ることが可能になる。
世界では、8億7000万人が飢餓に苦しみ、栄養不足で毎年250万人以上の子どもが命を落とす一方で、14億人が肥満による非感染性疾患(生活習慣の改善により予防可能な疾患)に悩まされるという矛盾を抱えている。