中米グアテマラの首都グアテマラシティにあるフェデリコ・モラ精神病院。患者が日常的に暴力やレイプの被害に遭い、世界で最も危険な病院といわれている。英国国営放送局BBCのクリス・ロジャーズ記者が、ボランティアを装って潜入取材を決行。12月5日付記事で現状を報じた。
「患者たちは中庭のコンクリートの上に横になっていたり、暗い病棟で床にうずくまっている。みな頭を丸刈りにされ、裸足でぼろぼろの服を身につけ、大量の鎮静剤を投与されている様子だ。裸で排せつ物にまみれている患者もいる。まるで強制収容所の捕虜のようだ」
院内ではもっと恐ろしいことが起きている。病院の警備員や医療スタッフが、患者を日常的にレイプしているのだ。この驚くべき事実を、病院の管理者ロメオ・ミネラ氏自らが、隠し撮り映像の中で認めている。ある少女は入院3日目に、鎮静剤を投与され眠っている間に、男性看護師にレイプされたと話す。男性患者も同様の被害に見舞われている。こういった院内での性暴力の蔓延は、患者をHIV感染のリスクにもさらす結果となっている。
この病院はグアテマラ唯一の公立精神病院だが、ゾーン18というグアテマラシティでも最も治安が悪い地区にあり、隣は刑務所だ。そのため警備員が配置されているが、その警備員がレイプ加害者になっている。また、同病院での暴力を3年にわたって調査した米国の「障がい者の権利のための国際協会」(DRI)によると、警備員やスタッフの一部は、中米や米国で活動する大規模なギャング組織マラ・サルバトルチャや別の犯罪組織と関係を持っているとみられる。
病院で働くスタッフは「フェデリコ・モラは、働く側にも恐ろしい場所だ」と、ロジャーズ記者に打ち明ける。「何を訴えても誰にも聞き入れてもらえない。もし院内での暴力を誰かに証言すれば、必ず報復がある」
DRIは、このような劣悪な状況についての独自調査を、「フェデリコ・モラ病院患者のための予防策嘆願書」としてまとめ、すでに2012年に米州人権委員会(IACHR)に提出している。これに対し、グアテマラ政府は至急対策をとるとしたが、BBCロジャーズ記者の取材を見る限り、2年を経た現在、何のアクションも起こしていないことは明らかだ。
今回のBBCの取材で、グアテマラ政府は次のように主張する。
「フェデリコ・モラは、世界保健機関(WHO) の推奨に基づき、患者への鎮静剤の投与を最小限にとどめている。また、患者の身体や施設を衛生的に保つために、訓練された看護師を配置している」「メンタ ルヘルスケアの改善について、全国的なレベルで取り組み始めたばかりだ。現在のところ、病院で性暴力やレイプがあったという報告はないが、内部調査を命じ た」
これに対し、DRIのメンバーは「2012年にもグアテマラ政府から同じような言葉を聞いた」と嘆き、フェデリコ・モラの患者を救うためには、もはや法的措置をとるしかない、としている。DRIは、グアテマラ政府に対し2015年秋に訴訟を起こし、病院を閉鎖するよう求める予定だ。