国際NGOオックスファムは3月25日、「気候変動の脅威によって深刻化する飢餓~世界の食料システムの備えを検証する~」と題する報告書を発表し、食料確保のために必要で、各国が取り組む10の政策分野を10点満点(必要とされる水準を10点とする)で評価した。以下、概要。
■気候変動適応のための資金:評価1未満
先進国は、貧困国の気候変動適応策(気候変動の抑制ではなく、起こる事象に対応すること)に対して資金を支援することが欠かせないが、必要額の2%しか現在のところ拠出されていない。
■社会保障:評価3
収入に占める食費の割合は貧しいほど高い。食料危機で最も影響を受けるのは貧困層の人たちだ。貧困層が食料へアクセスできるのに社会保障政策は効果的とわかっているが、社会保障がカバーするのは世界人口の2割のみ。
■食料危機に対する支援:評価6
気候変動で食料危機のリスクは高まっている。にもかかわらず、人道支援として「要請された金額」と「各国が実際に拠出した金額」のギャップは2001年以降、3倍に拡大した。
■食料備蓄:評価5
異常気象で食料生産が打撃を受けたり、食料価格が高騰したりした際の備えとして「食料備蓄」は欠かせない。ところが世界の穀物消費に対する穀物備蓄の割合は減少傾向。歴史的にみても低いレベルにある。
■ジェンダー:評価5
途上国の農業人口の43%が女性だ。だが彼女たちの社会的地位は低い。公的地位に就くことが少ない女性は、防災情報などへのアクセスが悪く、気候変動への適応に不利な立場にいる。女性に配慮する政策が必要。
■農業分野への公的資金:評価7
世界の農業向け支援は、過去30年で大幅に削減された。2003年のマプト宣言でアフリカ各国の首脳は、国家予算の10%を農業に充てると約束。しかしこの目標を達成したのは10年経ったいまもわずか4カ国。
■農業の研究開発:評価2
世界の種子の多様性はこの100年で75%減った。その土地の風土や気候の変化に適応する地域固有の在来種は失われる一方だ。在来種の再発見や種子の開発が求められる。
■農業灌漑:評価1未満
世界の農業の80%以上が雨水に頼っている。これは、雨量や降雨強度の変化に脆弱ということを意味する。ニジェールやブルキナファソなどのアフリカ諸国では、灌漑を引いた耕作地は全体の1%未満しかない。頻発する干ばつに厳しい状況に置かれている。
■農作物保険:評価2
農作物保険は、農作物被害の補償や信用枠の増加、定収入の増大につながる。だが世界の農家の大半は保険に加入していない。米国の加入率は91%だが、マラウイなどの貧困国ではたった1%。
■気象観測:評価3
正確な気象情報の提供は、気候変動に直面する農家への助けとなる。日本では面積1200平方キロメートルに対して観測所が1つあるが、アフリカのチャドでは8万平方キロメートル(オーストリアの面積に匹敵)に1つしかない。
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国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第5次評価報告書第2作業部会と第38回総会が横浜で開幕した。3月31日に発表される予定のIPCC第5次評価報告書では、地球の平均気温が3~4度上昇した場合、適応策を講じたとしても、地球上の多くの場所で食料生産が困難になるとの見方を示す。
オックスファムは、2030年までに世界の穀物価格は2倍に値上がりすると試算。この半分が気候変動による影響と分析している。オックスファムのこの報告書は、気候変動を背景に食料危機への脅威が増大しているにもかかわらず、先進国・途上国問わず、大半の国は備えが不十分だと忠告する。(堤環作)