世界銀行独立評価局(IEG)と国際協力機構(JICA)研究所、東京大学ESPD(日本と世界における貧困リスク問題に関するエビデンスに基づいた先端的学際政策研究)は10月8日、プロジェクトジョイントセミナー「開発援助評価を再考するー世界銀行グループとJICAの見地からー」を東大本郷キャンパスで開催した。災害復興や社会的保護、技術協力などの評価のあり方について議論された。
IEGのキャロライン・ハイダー副総裁は基調講演で、20億人といわれている世界の貧困層に災害が与える影響の大きさを指摘したうえで「ローカルコミュニティーは何がどう変わったのかを求めている」と述べ、災害に対して供与されるさまざまな支援の有効性を評価する重要性を強調した。
災害対応へのあり方を巡っては近年、防災の考えから「減災の考え」に移行する必要があるという概念が台頭してきている。減災につながる「災害リスクマネージメント(DRM)」の運用についてハイダー副総裁は「ローカルコミュニティーの要求を、災害対策の設計と実施段階で取り込む必要がある」と述べた。
JICA研究所の細野昭雄所長は同じく基調講演で、災害の原因が「シナリオの予想範囲内の場合」と「範囲外の場合」、「気候変動など外部要因の変化によるもの」という3つのカテゴリーに区分し、それぞれ要求される対応内容の違いについて指摘した。
予想範囲内と外では当然、災害シナリオに対して異なるアプローチが必要だ。また外部要因の変化に起因する災害については、気候変動のほかにも、途上国の一部で増えているスラム化への対処も大きな意味をもつ。細野所長は、南米コロンビアのメデジン北西部の傾斜地に広がっていったスラム地区にロープウェーを建設することで、災害を受けるリスクを低減させた例を挙げ、こうした「リスク地帯」を災害対策の観点から再開発する必要性を力説した。
細野所長はさらに、ローカルコミュニティーとのパートナーシップを尊重するためにも、いかに低コストでしかも簡便な方法で、効果的な支援ができるかが重要と指摘。地盤が弱いところに造られた擁壁に古タイヤを使ったコスタリカやホンジュラス、簡易水位計を設けたグアテマラなどの実例を紹介した。途上国では建築規則や土地利用規則なども急ぎ、整備する必要がある。
JICA研究所は、災害被害に対する援助評価について2011年の東日本大震災を契機に今までの「兵庫フレームワーク」を修正し、ミレニアム開発目標(MDGs)の終了期限である2015年以降、その新しいフレームワークをもとに積極的に国際的な場で働きかけていきたい意向。JICAは今までに147カ国5億ドル(約391億円)の防災関係の援助を行ってきた。(保田道雄)