真の独立にむけて(上)~ジンバブエの礎・教育制度~

アフリカ大陸南部に位置するジンバブエに1週間滞在し、各地を観て回った。訪れる前までのジンバブエに対するイメージと、実際のそれとは全くといっていいほど違っていた。人は親切で、都市は洗練されており、空気は開放的だった。そしてそれを形づくる教育の基盤がしっかりしていることにとても驚いた。

はじめジンバブエという国に対しては明確な印象をもっていなかった。ジンバブエドル、歴史上に残るハイパーインフレを起こしたこの通貨の印象がとても強かったくらいだ。

訪れるにあたりその原因を事前に調べてみた。ジンバブエはムガベ大統領によって30年以上も統治されている国家だという。もともとはアフリカでも農業生産性が高く食糧庫とも目されたジンバブエだが、2000年にムガベ大統領が白人から農地を強制的に収用して、もともとジンバブエに住んでいた黒人の国民に分け与える「ファスト・トラック」と呼ばれる政策を行ったことによって大規模で効率的だった農場経営が失われ、経済が一気に冷え込んだ。欧米からの経済制裁もそれに拍車をかけた。その結果としてハイパーインフレにつながったというのだ。

このような情報を調べていたのでジンバブエに対してはあまり良い印象を抱かなかった。ムガベ大統領によって長年にわたって独裁され、その「わがまま」な政策によって先進国からも疎まれる国家。国内はさぞや閉鎖的で、経済の落ち込みから人々は生活に苦しんでいるのだろうと勝手にイメージを膨らませていた。

しかし訪れてみてそのイメージは払拭された。

人々は親切だ。道を聞けば丁寧に教えてくれるし、バスに上着を忘れれば教えてくれた。多くお金を払うと返してくれる。相当な田舎に行かない限りは、英語もしっかりと話せる人が多い。

都市は都会的で洗練されている。ハラレにあるジンバブエ人建築家によって建設されたイースト・ゲートという蟻塚を模し、自然空調システムの構造をもつ複合施設は世界から評価されている。サム・レビーズ・ビレッジという洋風の街並みをもした商業区画には日本でも「普通」に通用するおしゃれなカフェやショップ、そしてサービスがある。そして世界中から招待された芸術家やパフォーマーがショーを繰り広げる「ハイファ」と呼ばれる芸術の祭典も毎年首都で開催されている。

親切な人、洗練された街、そしてそこから醸し出される開放的な空気。今までのイメージとは真逆だった。

そんな中でも特に驚きを覚えたのが進歩的な教育制度だ。世界遺産のグレート・ジンバブエを訪れた時に元教師のガイドが色々と教えてくれた。

まず特筆したいのは識字能力だ。サブサハラアフリカではジンバブエの識字能力が突出している。UNESCO(国際連合教育科学文化機関)の資料によると2011年の15歳から24歳のジンバブエの識字率は90.93%だ。サブサハラアフリカの平均が69.50%ということを考えるとこれはかなり高い数字だと言えるだろう。

これにはムガベ大統領が教育に力を入れているという背景がある。ジンバブエの教育・スポーツ・文化省によって作成された資料によると1980年の独立後、平均すると年間予算の20%以上が教育予算に充てられている。そしてこの予算の93%が教師の給与等のソフト分野に、残りの7%が建物や教材等に使われている。若干偏り過ぎている比率ではあるが、教育と言うとすぐに思い描きがちな学校校舎といったハードではなく、給与といったソフト分野に重点的に投資する大統領の教育に対する考え方が窺える。

同省は早期教育や初等教育、HIV/AIDSをはじめとするライフスキル教育、大人の識字能力向上、男女の平等な教育といった分野に注力をするという方針を打ち出している。

具体的に行われている施策として下記のような制度が設けられている。

ECD(Early Child Development)と呼ばれる施策では就学前の早期教育に注力している。これは小学校就学前の3~5歳児に2年間の教育を受けさせる制度だ。元々は一部の学校でしか行われていなかったが、2004年に全ての小学校がECDのクラスを開講するように規定された。

BEAM(Basic Education Assistant Module)と呼ばれる教育支援制度では孤児や貧困層といった教育費を負担できない家庭は無料で学校教育やテストを受けることが出来るように支援している。

他にも教科書を配布する制度や学校建設を支援する制度、コンピュータ学習を支援する制度などを設けて教育の振興を図っている。

教育レベルは一朝一夕で向上するものではない。ムガベ大統領が独立してから長年にわたり教育に対して投資を行ってきた結果が高い識字率に繋がっているのだ。

高い識字率や教育制度の話を聞く中で私の中でムガベ大統領に対する「わがままな独裁者」というイメージがどうもしっくりこなくなっていた。長期的な視点から投資をする国家経営者のように映りだした。

次回記事ではその「わがままな独裁者」というイメージを形作っていた最も大きな要素の1つである白人農場主からの強制的な土地収用「ファスト・トラック」をジンバブエの人の視点に立って見てみたい。(マラウイ・リロングウェ=谷口香津郎)