若き東南アジアの女性起業家たち、日本への展開を目指す

登壇した女性社会企業家ら

そーしゃる・アジアで活躍する女性の社会起業家が9月、東京に集まった。タイやベトナム、ミャンマーから来日した4人は都内で開かれた公開セミナーで国際機関や省庁、NPO、民間企業の勤務者や学生ら40名を前に、メコン地域の社会的企業の実情を報告。また、パネルディスカッションで共有の課題などを議論した。

会合は、7月30日から8月2日 までタイ・バンコクであった「アジア女性社会起業家セミナー」の報告会として開かれた。最近、メコン地域では、社会問題の解決を目的として収益事業に取り 組む社会的企業(ソーシャル・ビジネス)が増えており、こうした事業を創始する女性起業家も増えているという。会場にはそれぞれが生みだした商品なども展 示され、参加者の目を引いていた。

■アートを通じて障害児の遊び・学びをサポート

「あっ、かわいい!」。明るくカラフルな絵柄が描かれたポーチを手にとって、参加者の女性が声を発した。このポーチの仕掛け人は、TOHE Joint Stock Company。 ベトナムの障害を持った子どもたちへ、想像性を培うための遊び場やアートクラスを提供している。子どもたちの描いたアートを使った洋服やホームウェアなど を製品化し、その収益の一部を彼らのアートクラスの運営費や奨学金プログラムなどに還元する仕組みだ。明るく、曲線が柔らかな絵柄は、思わず無邪気な子ど もたちが絵を描く姿が浮かぶようなデザインだ。

TOHEの代表は、パネラーの一人、ファム・チ・ヌガン氏。大学卒業の2年後、夫とともにハノイでこの会社を立ち上げ、数年後には30名の従業員を抱える会社に成長。コカコーラやユニリーバと協業できるまでに発展した。

ベトナムは、国やブリティッシュカウンシルの取り組みで企業法の見直しが進んでおり、その中でソーシャル・ビジネスというカテゴリを確立しつつある段階にある。国内のソーシャル・ビジネスの8割が障害者問題に取り組んでおり、TOHEもそのうちの一社だ。

TOHEが支援している子どもの多くは、障害を持つだけでなく、地方に住んでいて貧しいケースも目立つ。しかし「どんなに苦しい貧困状況にあっても、子どもたちはポジティブで明るい絵を描ける。彼らが将来クリエイティビティを活かした仕事ができるようにサポートしたい」とファム氏は強調する。今後はビデオを活用した カリキュラムを強化し、地方の生徒にも指導できる仕組みを整える予定。2015年には南部ホーチミンにも出店、日本への輸出にも注力したい、とファム氏は力を込めた。

■タイのクラフト産業、1日の賃金は1000円以下

TOHEの商品の隣には、柔らかできれいなストールなどの布織物製品が陳列されていた。この仕掛け人は、タイのパサウィ・タパサナン氏。タイの農村部の女性職人とともに織物を制作・販売するFork Cham Craftsを2014年5月に立ち上げたばかり。職人の価値観やライフスタイルを反映した製品を普及し、農村の伝統美を伝えつつ、女性職人の収入向上を支援している。

タイのクラフト産業は多いが、中には労働者が不当な賃金で働いているケースも多い。1日の賃金は300バーツ(約1010円) 以下がほとんどだ。「透明性ある正規のルートで商品を販売することで、職人の支援に加え消費者の意識にも働きかけていきたい」とパサウィ氏は力を込める。 今後はデザイナーの数を増やす、村ごとに違うデザインを作る、日本で展示会を開催するなど、様々な構想が練られているところだ。

タイは、近年、国家経済が中所得国のフェーズに入ったが、人口6700万人のうち、依然として600万人が貧困に苦しむ。国際援助や寄付がより貧しい他国にシフトされつつある中で、タイ国内のNGOは、運営財源を自力で確保せねばならないプレッシャーを抱えている。

そんな中、現在400の事業体が、タイ・ソーシャル・エンタープライズ・オフィス(TSEO) に社会起業家として登録している。日本にも多いリサイクルやオーガニック、クラフト産業をはじめ、事業領域は多岐にわたる。ソーシャル・ビジネスの定義や法整備が依然として進みにくい状況ではあるが、チェンジ・フュージョンをはじめとした社会起業家の中間支援組織も多く、これからメコン河流域のモデルケースを創出していく可能性が高い。

■フェアトレードについて答えられない、日本のフェアトレード店員

彼女らのビジネスに共通するのは、社会的な支援をするのみならず、先進国の購買者の嗜好も大切にしていることだ。ファム氏も、パサウィ氏も「消費者のニーズ に合った特徴・デザイン・品質の製品を」と口をそろえる。売りたいものと、実際に売れるものは違う。そのことを彼女たちは十分に認識し、戦略を練りつつあ る。

活動の紹介に加えて、企業家から見た日本の現状について、興味深い指摘があった。彼女らはこの講演の前日、東京の百貨店をいくつか回ったという。「エシカル (倫理的)な製品のディスプレイの仕方に感動した」、「販売価格の高さや消費者の高い意識に驚いた」「日本の流行にソーシャル・ビジネスが取り入れられていた」など、感想はさまざま。日本のマーケットで近年、ソーシャル・ビジネスの認知が高まり、途上国の製品を受け入れつつある点に、大きなチャンスを感じたようだ。

一方で、百貨店の店員にフェアトレードの定義を尋ねると答えられなかったり、「フェアトレードの認可が下りている」という回答しか得られなかったり、という 体験もしたようだ。「私たちが解決したい社会課題や、製品開発の背景にあるストーリーをしっかりと打ち出すことで、販売店側の意識を変えていく必要性も感じた」と、彼女たちは語った。

■事業を始めるには男性の最終許可が必要

新興国や途上国では、特に地方や農村部でジェンダー問題が壁になっている。たとえば、何か事業を始める際には、必ず男性の最終許可が必要になり、書類の登記 上の事業者名は必ず女性でなく男性の名前になる。これらの壁が立ちはだかり、地方部の女性は、マーケットにアクセスしにくい状況だ。一方で、都市部の女性 の中には教育を受ける者も多く、より広い世界で、自由な選択ができるようになりつつある。

今後、彼女たちが、メコン河流域で、地域レベルでの協働や、マーケットの拡大、キャパシティビルディングにも注力していくことで、地域のロールモデルとな り、社会起業家を志す女性が増え、教育や法の整備が進む期待は高まるだろう。一方で、地方部の男女格差や教育格差は根深く、法整備だけではカバーしきれな い社会文化的な側面もある。このような面をクリアし、都市部と地方部両方でどう社会起業を進めていくかが、新たな課題となりそうだ。

日本人は消費者として、今後拡大するソーシャル・ビジネスに対して理解を深める必要がある。商品の品質やデザインだけで選ぶのではなく、その商品が誰の手に よって、どのような思いで作られ、どのようなルートを辿って届けられているのか。そんなエシカルな視点による消費者の選択も、社会問題の解決には欠かせな い。