人口増加と経済発展を背景に、水資源の効率的な活用が途上国で求められている。無収水対策が重要な課題だ。無収水とは、漏水や盗水、水道メーターの故障などにより受益者に届かずに失われる水のこと。マレーシア、ミャンマー、インド、フィリピンの取り組みを紹介する。
■マレーシアに東京水道サービスが進出
マレーシアの首都クアラルンプールを中心に上水事業を手掛けるシャリカ・ベカラン・アイル・セランゴール(SYABAS)は、セランゴール州、クアラルンプール、プトラジャヤで、無収水率を現在の33.8%から2年以内に30.7%に削減させる計画だ。漏水を見つけるのに効果的な「スマートボール」システムを使う。プロジェクト関係者によると、このシステムで1日に最大6600万リットル(東京ドーム53個分)を節水できるという。
スマートボールは、水道管の中で水の流れに乗って動き、漏水箇所を通り過ぎたときに音を出して位置を知らせる。ボールの大きさは、バッテリーも含めて30センチメートル。1分に100ミリリットルほどの小さな漏水も発見する。カナダの会社が開発したもので、2013年2月からSYABASは試行している。
東京都の監理団体、東京水道サービス(東京・西新宿)は、マレーシアのペナン州水道供給公社(PBAPP)に無収水削減対策の専門家を派遣。マレーシア人のマレーシア全土の水道事業者の職員に無収水削減対策を指導する体制を築くのが目標だ。国際協力機構(JICA)の草の根技術協力事業「マレーシアにおける無収水削減技術研修・能力向上プロジェクト」で、2014年1月から2016年11月まで実施する。マレーシアからはすでに18人が、東京水道サービスとPBAPPが実施した3日間の無収水削減技術研修を受講。1月29日に修了証書を受け取った。
マレーシアの2012年の無収水率は、国家水道事業委員会(SPAN)によると36.4%。1分24秒ごとに水道管が爆発したり壊れたりするとの報告がある。またマレーシア水道協会(MWA)によれば、無収水の原因の75~80%は水道管の欠陥、15~20%は不正確なメーターや盗水。無収水率が最も高いのは、マレー半島最北端のペルリス州で66.4%、最も低いのはペナン州で17.6%。
■ミャンマーでは東洋エンジニアリング
爆発的な経済成長が期待されるミャンマーでも、無収水対策は始まった。東京水道サービスと東洋エンジニアリング、ミャンマーのヤンゴン市開発委員会(YCDC)は、ヤンゴン市の無収水対策事業に共同で取り組む。事業内容は、漏水箇所の調査、水道管の修繕・取り替え。大きな特徴は、日本製の漏水発見器や水道メーターを現地に持ち込み、使用することだ。実施期間は2014年10月20日から2015年3月まで。これは、JICAの技術協力プロジェクトの一環。
JICAによると、ヤンゴン市の無収水率は66%と半分以上と高い。また水道サービスは人口の38%しかカバーしていない。
■ケララ州州都では飲み水の4割が損失
インドの英字紙タイムズ・オブ・インディアによると、同国南部のケララ州水道局(KWA)は、JICAの支援を受けて無収水の実態を本格的に調査する。州内のすべての主要な水処理施設に水道メーターを設置するためにKWAは、約1800個の水道メーターを購入する必要がある。JICAが手始めに147個を購入した。
KWAによると、ケララ州の州都ティルヴァナンタプラムでは飲み水の40%近くが配水の段階で失われているという。
またフィリピン南部のミンダナオ島サンボアンガでは、アヤラ財閥傘下のマニラ・ウォーター(MWC)とサンボアンガ市水道局が無収水削減対策に共同で取り組む。サンボアンガはイスラム教徒が多い地域。今後10年のプロジェクトで、MWCが70%を出資する。JICAによると、2012年のフィリピン全体の無収水率は25.2%だ。