国際NGOのオックスファム・インターナショナルは10月4日、土地収奪につながる投資を抑止するよう、世界銀行に行動を求めるキャンペーンを開始した。同団体は「私たちの土地、私たちの命」と題した報告書を発表。2000~10年の10年間で、全世界では英国の国土の8倍に相当する土地(日本の国土の5.2倍)が外国人投資家に売られ、この6割以上が途上国で取引された事実を明らかにした。
食料価格はこの4年間で3度高騰している。食料安保に対する懸念から、土地(農地)に対する関心はさらに高まるのは必至の状況。先進国はこれまで以上に食料の確保に動き、投資家は土地を投機の対象とみる。こうした圧力を背景に、途上国での土地取引(土地収奪)はますます増えるとの見方が強まっている。
途上国の農村部では、先祖代々暮らしてきたにもかかわらず、正式な土地の権利をもっていない農民が少なくない。このため土地の取引では、貧しい農民が立ち退きを強制されるという事態が起きている。土地を奪われた“農民”は生活の糧を失い、飢えていく。オックスファムによると、この10年で外国人投資家に収奪された土地は、世界でいま飢餓に直面する10億人分の食料を生産するのに十分な面積だという。
そこでオックスファムは、世銀が手がける農地への投資を伴うプロジェクトを凍結し、また土地の収奪を予防するため土地取引の基準を改善するよう、このキャンペーンで訴えている。改善ポイントとしてオックスファムが指摘するのは下記の4点。
1)「透明性」=土地取引の情報を開示すること。影響を受けるコミュニティーや政府はその情報にアクセスできること
2)「協議と同意」=プロジェクトについてコミュニティーは事前に知らされ、同意または拒否ができること
3)「土地の権利とガバナンス」=より良い土地保有のガバナンスを通じた土地と自然に対する貧しい人の権利を強化する
4)「食料安保」=土地への投資は食料の安全保障を弱体化させないこと
これに対して世銀は、ガバナンスの弱い途上国で、収奪的な土地売却の事実があることは認めた。土地取引の透明性や適切なガバナンス、土地取得のプロセスにその地域の利害関係者(ステークホルダー)が参加する必要性などについてはオックスファムの考えに同調するものの、世銀自身は、投機的な土地投資や土地買収はサポートしていないと反論。食料価格が急騰するいま、大規模な農業企業への投資を一時禁止することはできないと拒否した。
世銀によると、同行がかかわるプロジェクトは、途上国での農業生産性の向上が約9割を占めるという。このほか、立場の弱い小農が土地の権利を保護されるよう土地保有のガバナンスにも取り組んでいる。
2050年には人口がいまより20億人増え、90億人に達する。こうした人口を支えるには世界的に70%の食料増産が必要との予測を世銀は立てている。食料価格の高騰を受け、多くの人が再び飢えに後戻りしないためにも、環境と土地権利を保全・保護しながら、農業部門へ新たな投資を呼び込み、生産性を上げるべきというのが世銀のスタンスだ。
土地収奪に反対するキャンペーンの一環としてオックスファムは10月11日、開催中の国際通貨基金(IMF)・世銀総会の会場である東京国際フォーラム(東京・千代田)で、「世界的農地争奪を止めるために:土地への権利の擁護と、食料安全保障の推進を」と題したセミナーを開く。このセミナーでは、世界的な土地収奪についての新しい研究結果に基づき、責任ある農業投資のあり方を模索する。また最大の土地投資機関でもある世銀の役割を含む解決策を考える。(長光大慈)