ごみは厄介だ。モノの数だけごみは出るし、時代とともに“消えないごみ”も増えていく。すべてを、土や水、空気を汚染しないよう処理することができれば理想。ただ途上国では、住人の環境意識の欠如(ソフト)に加えて、自治体の資金不足(ハード)という現実もあり、どこもごみ問題に頭を抱えている。ベネズエラのマリパ村とその周辺を例に、ごみの現状に迫ってみた。
トイレットペーパーはどこに行く?
「トイレでうんちをしたら、お尻を拭いたトイレットペーパーは便器に流さないように。詰まっちゃうから。便器の横に置いてある箱に入れておいて」
ベネズエラ環境省マリパ事務所に赴任した当初、所長のレイナルド・ゴメスさん(45歳)からこう念押しをされた。
トイレットペーパーは流してはいけない。これはラテンアメリカの常識。ちなみにこのオフィスには私を含めて3人が暮らし、このほかに5人が通ってくる。だからこの箱はすぐにいっぱいになる。
問題はその汚れたトイレットペーパーをどう処理するかということ。このオフィスには驚くなかれ、「ごみ箱」は存在しない。黒い大きなビニール袋がひとつ、オフィスの中にどんと置いてある。そこに瓶やら缶やら紙やらプラスチックやら食べ残しやら、そしてもちろん使用済みトイレットペーパーも一緒くたに入れるのだ。早い話、お尻を拭いた紙がオフィスの中に数日間保管されることになる。
いまでこそずいぶん“慣れた”ものの、来た当初はとても耐えられなかった。
「うんちの付いた紙をオフィスの中(トイレの中ではない)に置いておくのは衛生的にも良くないでしょ。汚い。庭で燃やしてもいい?」と私が懇願すると、「待て。じゃ、いまからトラックで捨てに行こう」とレイナルドさんは答えた。
環境省のトラックに同乗して向かった先はサバンナ。わずか5分ほど走ったところになんとサッカーグランドほどの広さのごみ捨て場があったのだ。
ハエの大群が窓から押し寄せ、いろんなごみの混じったにおいが一気に充満し、思わず口をつぐむ。別のスタッフがトラックから降り、ごみ袋をサッと外に投げ捨てた。
「これできれいになったぞ」
レイナルドさんはにっこりと胸を張った。
ごみの回収サービスはない!
マリパは行政上、スクレ市の集落のひとつになる(マリパは市役所所在地)。スクレ市の人口はたったの1万5000人ほどなのに、面積は横浜市よりずっと広い。交通インフラが悪く、すべて陸路で到達するのはほぼ不可能だが、クルマで行ける範囲だけでも、端から端まで4~5時間はかかる。
見渡す限りサバンナ。あと目につくのはごみ。ごみがあまりに散乱しているので、私は最初、スクレ市にはごみの回収サービスが存在しないんだな、と思っていた。
市役所に話を聞きに行ったとき、ごみの担当者であるディエゴ・ディアモンテさん(34歳)はこう教えてくれた。
「スクレ市は、パッカー車を2台持っている。だけど1台は故障中なんだよ。実際に稼働しているのは1台。すべての集落のごみを回収するのは到底できないから、マリパをはじめ、3つの村のみでしかやっていない」
ただこの回収サービス、はっきり言って、ごみを単に“動かす”だけ。パッカー車は、各家庭から出されたごみ(ビニール袋やポリバケツの中に入っている)を積み込むと、サバンナに直行。そのままごみ捨て場にドサッと捨てるのだ。
リユースやリサイクルは言うまでもなく、焼却などの中間処理もなし。地面をシートで覆いもしない。早い話、路上にポイッと捨てる代わりに、サバンナにドサッと捨てるだけ。ごみ捨て場に時々火を放ち、野焼きもしている。
このやり方についてディエゴさんは「資金がないから」と苦笑いする。市役所でかつて働いていた、村一番のインテリであるエルピディオ・ヒメネスさん(64歳)が内情を教えてくれた。
「スクレ市の通常予算は年間およそ5億円。このうちの8割(4億円)が人件費関連で消えてしまう。市役所で常時働いている人は400人ぐらいと多いし‥‥。マリパには仕事がないから、できるだけたくさんの人を雇う。それが市長にとって格好の人気取りになる。残りの1億円で道路を舗装したり、電線を補修したりする。それでおしまい」
ごみ問題は後回し。住人にとってみれば、“あした”のリスクを軽減するごみ処理よりも、“いま”の暮らしを支える道路や電気を少しでも整備してもらうほうがはるかに嬉しいのだ。
ごみ回収のない大多数の村は、いわば陸の孤島。行政の支援はゼロ。自分たちで何らかの対策を立てて実行するしかないわけだが、ごみの知識も、働く意欲にも欠け、また「ごみが汚い」という感覚さえも鈍っている彼らが、独自で解決方法を模索することはとても難しい。