オリノコ川は“ごみフロウ”!
80年代の終わりに世界的大ヒットを記録した「オリノコ・フロウ」という名曲がある。アイルランドを代表する歌手、エンヤが妖精のような声で歌い上げたバラードだが、この歌の舞台となったのがオリノコ川。南米3位のこの大河は、マリパからそんなに離れていないところを流れている。
オリノコ川沿いにはいくつも集落がある。モイタコという人口2千人ほどの村もそのひとつ。数百年の歴史を誇るこの村にはごみの回収サービスはない。ではどうするか。ごみはオリノコ川に投げ捨てるのだ。マリパではサバンナに捨てるが、モイタコではオリノコ川がごみ捨て場に取って代わる。悲しいかな、世界中の多くの人がエキゾチックなイメージを抱く「オリノコ・フロウ」の現実は“ごみフロウ”なのだ。
「オリノコ川は、流域で暮らす人々にとっては大事な水源でしょ。そこにごみを捨てるということは、下流の人が汚い水を飲まなくちゃいけないということなんだよ」とモイタコの住人に言い聞かせると、「そんなこと言われたって‥‥。ごみを捨てるところがないし。(季節によって水位が大きく変動するため、川べりに溜まったごみも)雨季になれば川に流れ出し、“きれい”にしてくれるよ」と肩をすくめた。
一方、変わった視点でごみ問題に取り組んでいる自治体もある。
オリノコ川の対岸にある、人口約8万のエルティグレという町(アンソアテギ州)だ。路上にはごみ箱が置かれ、ごみも気になるほど道端に落ちていない。
ごみ箱には「エルティグレ人の誇り」という意味のフレーズが書かれている。環境にやさしい行動を通して自分たちの誇りを高めていこう、というメッセージが込められているのだ。
路上にごみ箱を置くというのは、途上国では実はなかなかすごいこと。無用心に設置すれば、何かと使い道のあるごみ箱そのものが盗まれてしまう。盗られないようにごみ箱を地面に固定すると、今度はごみ箱の中身をパッカー車に移す作業が面倒になるし、余分なコストもかかる。
だからマリパをはじめ、途上国の多くの場所では、ごみ箱を外に置きたくても置けないという隠された事情もあるのだ。
高校に通うニノスカ・カスティージョさん(17歳)は言う。
「ごみをどうにかしたいとはみんな思っている。村をきれいにすれば、マリパにだって観光客が来てくれるかもしれないでしょ」
ごみをきちんと処理すれば、収入も増え、生活そのものが良くなる可能性もある。まずはごみ箱から。そしてごみ捨て場へ。やはり地道に歩を進めていくしか方法はないのだろう。ごみは自然に消えてはくれないのだから。(続き)