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もらい慣れ? 国の奨学金でビールを飲む人たち
「環境クズネッツ曲線」の論理を地元の人に説明し、考えを聞いてみた。
ベネズエラ環境省にかつて勤め、アメリカ合衆国に留学経験もあるエルピディオ・ヒメネスさん(64歳)は言う。
「こっちの人(マリパの人、または典型的なベネズエラ人)はそもそも学ぼう、なんて思っていない。(マリパに面した)カウラ川の魚を獲って生計を立てている人たちは、ゴソッと獲って、そのカネでビールやラムをたらふく飲むんだ。カネがなくなれば、また獲りに行く。この国は豊か。だけどメンタリティーは貧しい。なぜかって? 政府がなんでもかんでもタダで与えるから、その意識が染み付いているんだろう」
この発言の趣旨を補足すると、マリパをはじめ僻地の人々は、所得税も、電気代も、水道代も、何も払っていない。それどころか、何かにつけてカネをもらえる。たとえばベネズエラ政府は、教育を受ける機会を逸してきた人たちにもう一度就学のチャンスを与えようという計画(小学校から大学まで)を進め、その対象者らに奨学金として毎月100ドル近くを配っている。ところがそのカネを手にした人たちは本やノートを買うのでなく、飲み代に使ってしまうのだ。
チャベス大統領は、社会的弱者に手を差し伸べる政策を打ち出している。「それがむしろ、国民が学ばない姿勢を助長してしまっている。競争もない。黙っていてもカネがもらえる。だから“環境問題を考えるメンタリティー”なんて育つわけがない」というのがエルピディオさんの主張だ。
つまり経済は十分なレベルに達しても、国民のメンタリティーが付いてきていない。ベネズエラの政治も、他のラテンアメリカと同じように、ポピュラリズムが主流。その人気取り政治が国民に「甘えの構造」を作ってしまい、環境意識の醸成を結果的に阻害しているのかもしれない。
オイルマネーで“経済だけ”がキュッと伸びた!?
経済そのものもどうか。「ベネズエラ病」という言葉がある。
ベネズエラの経済は完全に石油におんぶに抱っこ。なにしろ輸出収入の8割、国家歳入の半分、GDPの4分の1がオイルマネーなのだ。するとどうなるか。優秀な人材はすべて石油産業に流れていく。給料が良いから。この国では小学生までが「将来は石油関係のエンジニアになりたい!」と答える。石油産業は夢であり、憧れなのだ。
その結果、それ以外の産業がなかなか育たない。石油産業はますます突出していく。この現象を経済学でベネズエラ病という。
産業がない。自国でモノを作らない。日常品でさえ多くのものを輸入する。だから物価が高いのはともかく、自国でモノを作らない、または作ろうとしない姿勢は、メンタリティー形成の上でとてつもなく大きなデメリットをもたらす。なければどこかから持ってくればいい、誰かが何とかしてくれるだろう‥‥。
対照的に、似たような経済レベルにあるタイやフィリピンでは、外資を積極的に導入し、工場を国内に建設させ、その中で少しずつ技術を移転させ、製品を海外に輸出し、世界市場で切磋琢磨しながら発展を遂げてきた。
言うならば、石油に代表される“資源力”ではなく、自分たちの“労働力(国民力)”で経済を押し上げてきたわけだ。そのプロセスで、人々は少しでも良い収入を得ようと一生懸命勉強し、働き、技術を身に付け――と競争にさらされてきた。豊かさを享受しながらも、脱落者も出ていく社会。若い女性ならば、バンコクのパッポン通りに林立するゴーゴーバーで踊るという運命をたどっていくことも。
どちらが良いとか、悪いかという話をしているのではない。ここで強調したいのは、ベネズエラがいま手にしている経済レベルは、オイルマネーで“あぶく銭”的に稼いだもので、本物ではないということ。石油がなくなれば消える経済。国民の力で経済を押し上げるプロセスを踏んでいないから、本来はそこで学ぶべきさまざまなモラル(もちろん環境モラルも含め)を習得できず、モノ(ごみ)だけ増えてしまった、との皮肉な見方もできるのだ。
生まれながらにして豊かな国、ベネズエラ。この国で“環境の世紀”が幕を開けるのはいつのことやら。(続き)