トタン屋根の質素な家に入ると、「ちまきのようなもの」と「こんにゃくのようなもの」が出てきた。ミャンマーの伝統的なお菓子、「モンペットゥ」と「ターグーピン」だ。両方とももちもちして、少し甘みがある。ここは、ミャンマー・ヤンゴン市のダウンタウンから車で1時間のところにあるラインタヤ地区。このミャンマー菓子を作ったトゥオサンティンさん(64)はこれを家の玄関前で売っている。
モンペットゥは、おもちのような生地の中にココナツ(コプラを細かく刻んだもの)を入れ、それをバナナの葉で包んだものだ。ターグーピンは、ココナツを揚げたものを、おもちのような生地の上にかけているお菓子。この2つのほかに、もう1つ同じような伝統なお菓子モンパイントゥを売っている。これが一番人気で、午前中に売り切れてしまう。
ヤンゴンでは4月は最高気温が40度近くまで上がる。エアコンがない家で暮らす人にとっては苦しい環境だ。暑さで疲れやすくなるため、トゥオサンティンさんは、作るお菓子を3種類のみにしている。暑くないシーズンはもう2種類作るという。
値段は、モンペットゥ100チャット(約10円)、ターグーピン50チャット(約5円)、モンパイントゥ50チャット(約5円)だ。1つ200チャット(約20円)で売られているヤンゴンのダウンタウンと比べると半額以下。毎日それぞれ約250個も売れるほどの人気ぶりだ。
トゥオサンティンさんは現在、ミャンマーの中堅マイクロファイナンス機関ソシオライトから15万チャット(約1万5000円)の融資を受けている。マイクロファイナンスを利用する前と後で大きく変わったことは、材料を仕入れる頻度だという。
以前は手持ち資金が少なかったため、自転車操業で毎日仕入れる必要があった。「マイクロファイナンスを使うことで仕入れの手間が減って、すごく楽になったわ。一度にたくさんの量を仕入れることができ、今では週に1回や月に1回で済むの」(トゥオサンティンさん)
一度の仕入れ量が増えたことで、店頭販売だけでなく、他の小売店に卸すこともできるようになった。他の小売店には、店頭での値段よりも1個20チャット(約2円)安く売る。「そうすると、小売店と良い関係でいられる。長い付き合いをしていくためには必要なことなのよ」(トゥオサンティンさん)
トゥオサンティンさんによると、店頭の売り上げはほとんど変わっていない。「小売店への販売が増えたぶんだけ収入が増えたの。といっても、ちょっとだけなのよ」と苦笑いする。
それでもマイクロファイナンスを利用し始めて生活に余裕が出てきた。1日に1~2回、托鉢に来る僧侶や尼に、自分が作るミャンマー菓子を渡す。貧しい子どもにあげることもあるという。
これからの目標についてトゥオサンティンさん「このお菓子しか今は売っていないけれど、玄関前の店を『食料雑貨店』(家の軒先にある小さなコンビニ)にしたい。いろんな食べ物も売って、もっとお客さんを増やしたい」と力強く話す。趣味をもたず、今の仕事が大好きなトゥオサンティンさん。「新しいことに挑戦することは大変なこと。でも、好きなことだからなんでもできちゃう。好きなことだったら、休みがなくたって楽しいものよ」(トゥオサンティンさん)
日本では、サラリーマンのほとんどが60代前半に定年退職するのが現実だ。だがトゥオサンティンさんの人生はまだまだ「現役」。マイクロファイナンスを使っても収入はさほど上がっていないため、『食料雑貨店』を開くのは厳しいかもしれない。ただ、マイクロファイナンスは、トゥオサンティンさんのようなおばあちゃんにも夢を持たせてくれるといえそうだ。