たばこ税引き上げで増加する「密輸たばこ」、エジプト政府の苦闘

たばこ税の税率を引き上げたエジプトで、密輸ルートから、安価な外国たばこが流入している。違法たばこの取り締まりにエジプト政府は躍起となっているが、安いたばこを求める喫煙者の志向もあって、エジプト政府がもくろむ「喫煙者の減少」は困難を極めている。

エジプト政府は2009年、世界保健機関(WHO)が提唱する「たばこ規制枠組み条約(FCTC)」を批准した。FCTCは05年に発効した、世界で初めてとなる公衆衛生分野の国際条約だ。たばこの消費量を減らすことを目的に、たばこ税の導入・税率アップやたばこ広告の禁止、レストランやバーを除く公共の場所での禁煙などを「義務」として盛り込んでいる。

これに沿ってエジプト政府は、たばこ税の税率を引き上げた。この措置により、たばこの販売価格は60%の値上げとなった。また、映画やテレビが流す喫煙シーンも全面禁止とした。

ところが「たばこの消費量を減らしたい」というエジプト政府の思惑は外れた。非合法なルートで、外国たばこがエジプトにたくさん密輸され始めたからだ。「密輸たばこは、喫煙による健康被害の警告も記載していない。もちろん税金もフリー」(WHOタバコ・フリー・イニシアティブのエジプト担当)。たばこ1箱を正規の値段で買うお金で、3箱の違法たばこを購入できるという。

米国たばこを例にとると、プエルトリコ、スペイン、キプロス、レバノン、トルコなどを経由して入ってくるといわれる。取り締まりは簡単ではなく、11月中旬に韓国で開かれたFCTC会議(主催:WHO)でも、たばこの密輸を撲滅させるには「サプライチェーンをコントロールすることと、国際社会が協力してそれに取り組むことが不可欠だ」との見方で一致している。

エジプトでは、成人男性の約半数がたばこを吸う。10代の少女による喫煙も、成人女性の3倍のレベルまで増加している。心臓発作やがん、肺疾患の増加が懸念されるため、エジプト政府は、たばこの消費量削減を政策として推進してきた。

難しいのは、伝統的なイスラム社会では喫煙は常識とされることだ。禁煙を唱える人は往々にして「共産主義者」「フェミニスト」「テロリスト」などのレッテルが張られるという。

だがエジプトでは1999年、イスラム法学者のシーク・ナスール・ファリド・ワッセル師が、禁煙を呼びかけるファトワー(イスラム教としての勧告や見解、宗教令)を発信。「アラーの神がわれわれに与えてくれた体に、ダメージを与えてはならない。コーランも、自分の手で自分の体を傷つけることを禁じている」と訴えた。

だがこのたばこファトワーの効果はあまり出ていないのが現実だ。エジプトではその後も喫煙者数は年8%のペースで増え続けた。エジプトはいまや、中東・北アフリカで最大の喫煙大国。03年のたばこ消費量は国全体で618億本とのデータもある。

FCTCの批准国は現時点で、米国やインドネシアを除く176カ国。FCTCのハイク・ニコゴシアン事務局長は「違法タバコの取引を撲滅させることは、(歳入を増やしたい)政府と(健康になる)国民の双方にとってプラスだ。タバコの認可などを国際社会が共同で進めるのが重要」と話す。(今井ゆき)