インドで止まらない「名誉殺人」、年間80人の女性が犠牲に

インドではいまも「名誉の殺人」が日常茶飯事だ。名誉の殺人とは、婚前・婚外の性交渉をしたり、異なる宗教・階級の男性と交際・結婚した女性が家族にいた場合、「家族の名誉を汚す存在」ととらえ、父やきょうだいが名誉を守るためにその女性(娘、姉、妹)を殺す風習のこと。パキスタンをはじめとする中東で盛んだが、インドでもこの悪しき習慣はなくならない。その実態をアルジャジーラが12月27日付記事で取り上げた。

インド・コルカタでは2012年12月7日、22歳の女性ニロファル・ビビさんが兄に殺された。

ビビさんは14歳のとき、両親が決めた相手と強制的に結婚させられた。だが嫁ぎ先で長年にわたって暴行を受けたため、実家に逃げ帰った。その後、恋人と一緒に暮らしていたが、ビビさんの兄が突如、ビビさん宅を襲撃。ビビさんの首を切り落としたという。兄は、ビビさんの首を下げて歩いているところを現行犯逮捕された。

この事件についてビビさんの家族は「家族の名誉が傷つけられたから、兄は正しいことをしたまで」と、殺されたビビさんではなく、殺した兄を擁護している。

こうした名誉殺人はインド全土で起きている。2012年12月だけをみても、北部のウッタル・プラデーシュ州では12月24日、17歳の娘が、違う宗教の男性と交際しているとの理由で父に殺された。南部のカルナータカ州でも12月23日、19歳の娘が両親に殺害され、遺体を燃やされた。

2000年に発表された国連の調査によると、インドでは1年間に70~80人の女性が名誉殺人で殺されている。事故や自殺に見せかけたものもあり、実際にはもっと多い可能性もある。世界に目を移せば、名誉殺人の犠牲者(女性)は、中東のイスラム圏を中心に年間5000人以上にのぼるといわれる。

名誉殺人をどうやって阻止するのか。インドの最高裁判所は、名誉殺人に加担した者は死刑にしたい意向を示しているが、多くの団体がそれに反発している。また、犯罪から女性を守るべき警察も機能していないのが実情だ。

そこでインドのいくつかの州が採用する対策が、女性に携帯電話をもたせないこと。「技術は性的関係をもたらす」として、女性が携帯電話を所持することを禁じている。

東部のビハール州では、携帯電話を所持する女性に対し、独身者には180ドル(約1万6000円)、既婚者の場合360ドル(約3万1000円)の罰金を科す。ウッタル・プラデーシュ州や北西部のラージャスターン州(18歳以下の女子のみ禁止)でも女性が携帯電話をもつことが許されていない。

ただ携帯電話の所持禁止は、「不名誉な」女性を身内から出さないための措置といった色彩が濃い。これで本当に名誉殺人がなくなるのか。根本的な解決に必要なのは、通信手段を失くすといった対処法ではなく、男性の意識をどう変えていくかにかかっている。(今井ゆき)