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カツラ、カツラ、カツラ‥‥。ジャマイカでは老若男女がカツラをかぶっている。色は、黒や茶から奇抜なものまでさまざま。髪質は長くまっすぐなものがほとんどだ。その髪をポニーテールにしたり、そのまま下ろしたり、とみんなファッションを楽しんでいる。カツラを着用していますよ、と周りに“見せる着け方”がジャマイカ流だ。
カツラ好きが多いお国柄なのに、カツラを絶対にかぶらないジャマイカ人もいる。「ラスタ」(ラスタマンともいう。女性も含む)と呼ばれる人たちだ。ラスタとは、奴隷からの解放と真の自由を手にすることを目的にジャマイカで生まれた宗教的思想運動「ラスタファリ運動」に賛同し、それを生活のなかで実践する人たちのこと。ジャマイカ国民の8〜10%(数十万人)はラスタといわれる。
自然を愛するラスタは、髪を切らない。驚くほど長く伸ばし、油で髪をまとめ、1本の太い束にする。その束をいくつも作り、最後に巻き上げる。ありのままの姿で自分を表現し、自然体でいることが彼らの生き方だ。
ラスタはなぜ、髪を切らないのか。この謎を解くカギが奴隷の歴史だ。「何者・物」にも束縛されず自由に生きたいラスタにとって、西洋から持ち込まれたハサミやカミソリが自分の体・髪に触れることは嫌だし、「西洋化を拒否する」という思想にも反する。ラスタのある男性は「(これは)自由を手に入れるための抵抗手段だ」と話す。
では“カツラ派”はなぜ、カツラを着けるのか。「美しく、カッコ良く見せたい」「彼氏・彼女を作りたい」といったよこしまな気持ちはさておき、心の奥底には「西洋人に近づきたい」願望が見え隠れする。西洋人のように振る舞い、西洋式の生活をすることで、奴隷時代には得られなかった自由を手に入れられるのではとの意識がある。
あるジャマイカ人は実際、「カツラをかぶっている人は、自由を得る方法として、自分自身を不自然なアイデンティティに塗り替えようとしている」と私に説明した。
西洋への同化はなにもカツラだけではない。土着の言語であるパトワ語があるにもかかわらず、奴隷解放前から英語教育が発達したこと、国民の6割以上がキリスト教徒ということなどもそうだ。最近では、自分の肌の色を脱色しようと試みる人もいる。
私はあるとき、あるラスタの男性に聞いてみた。「カツラを着けた女性は好き?」。すると「絶対にノー。あれは彼女たちの本当の姿ではないよ。カツラをとったほうがかわいいのに」との答えが返ってきた。
たかがカツラ、されどカツラ。暗黒の奴隷時代に先祖が辛酸を舐めてきたジャマイカ人にとって、奴隷解放後のいまも、西洋に対する強いコンプレックスと自由に対する強い渇望が意識の根底に眠っている、と私は感じた。(ジャマイカ=吉松友美)