■女性の賃金労働者の7.5%
雇用された家事労働者(いわゆるメイド)は2010年時点で、全世界で少なくとも5260万人いることが、国際労働機関(ILO)の報告書「世界の家事労働者:世界全体および地域別統計と法的保護の程度」でわかった。家事労働者の数は、1990年代半ばから1900万人以上増えたという。
ただこの統計には15歳未満の子どもが含まれていない。15歳未満の家事労働者をILOは08年時点で740万人と推計しており、この数字を足せば、世界の家事労働者数は6000万人に達する。これは、世界人口を70億人として単純計算すると、117人に1人が家事労働者になることを示す。
地域別にみると、家事労働者が最も多いのはアジア太平洋だ。全体の40%、人数にして2140万人を数える。これに次ぐのは中南米・カリブで、同37%の1960万人。両地域合わせて、世界の家事労働者の8割近くを占めた。以下、アフリカ520万人、先進国360万人、中東210万人の順。
性別では、家事労働者の83%が女性だ。その多くが出稼ぎ労働者として、家族から離れ、外国で働く。
特筆すべきは、女性の賃金労働者の7.5%を家事労働者が占めているという事実だ。この傾向はとりわけアジア太平洋と中南米・カリブで強い。仕事の選択肢がまだまだ少ない途上国の女性にとって、家事労働は大きな労働セクターのひとつになっている。
■「低賃金」と「長時間労働」にあえぐ
家事労働者のほとんどは、劣悪な労働環境に直面している。一言でいうならば「低賃金」と「長時間労働」だ。法的保護が欠如しているためで、ILOはかねて、この実態を問題視してきた。
ILOによると、「一般労働法」の適用対象となっている家事労働者は全体の1割しかいないという。他の仕事と同じ最低賃金を受ける「資格」を法的にもつ家事労働者でさえ、全体の半数強のみにとどまっている。さらに、女性家事労働者の3分の1以上は、「母性保護」(妊娠や出産、授乳など母体機能をもつ女性を、労働の場で保護する措置)も受けられないのが現状だ。
家事労働者の平均労働時間をみると、たとえばマレーシアでは1週間で66時間近い。カタールやナミビア、タンザニア、サウジアラビアなどでも同60~65時間。ILOは、さまざまな職種のなかでも家事労働の労働時間が最も長いと指摘する。
家事労働の場合、半分以上の国で、1週間の労働時間の法定上限がないという。約45%の国では、週休や有給休暇の資格についてすら法は定めていない。
こうしたなか、最も過酷な境遇にいるといわれるのが、住み込みの家事労働者だ。勤務時間はあってないようなもの。必要なときにはいつでも働かされる。余分に働いても、その分の報酬はもらえない。住み込み家事労働者は外国からの出稼ぎ労働者が多い。
■「家事労働者条約」が9月に発効
家事労働者が抱える問題は、低賃金と長時間労働だけではない。とりわけ外国人の家事労働者は法的立場が弱く、また現地の言葉が苦手だったり、その国の法律知識が乏しいこともあって、「暴力」や「賃金不払い」、「債務奴隷労働」、「虐待的な生活」などにさらされがちだ。
2011年の総会でILOは、家事労働者の労働環境の改善を目的に「家事労働者の適切な仕事に関する条約」(家事労働者条約)と「家事労働者の適切な仕事に関する勧告」を採択した。家事労働者条約は2013年9月に発効する。
この条約は、家事労働者は他の労働者と同じ権利をもつべきとの考えから、「安全で健康的な作業環境の権利」「一般の労働者と等しい労働時間」「最低でも連続24時間の週休」「現物払いの制限」「雇用条件に関する情報の明示」「結社の自由や団体交渉権」などを認めている。
これ以外にも、住み込み労働者のためには「プライバシーの確保」、児童家事労働者には「義務教育を受ける機会を奪わないこと」、移民労働者に対しては「国境を越える前に、雇用契約書などが提供されること」などが含まれる。
いくつかの国は、家事労働者の権利を広げる方向に進めつつあるものの、アジアと中東ではまだまだ多くの努力が欠かせないとILO。サンドラ・ポラスキー副事務局長は「家事労働者の労働条件を改善するには、政府、使用者、労働者の3者が全国的な行動を起こす必要がある」と述べる。