ユーロ危機に陥っているキプロスで、中国人の富裕層が不動産を買い漁り始めた。2月6日付ガーディアンが報じたもので、とりわけ同国西部の都市パフォスは、そのターゲットになっている。公式統計によれば、2012年8~10月の2カ月で取引された不動産のうち600件以上を中国人が購入。この9割がパフォス市内の物件だった。キプロスの不動産価格は、リーマンショック前の07年から15%下落しており、こうしたお得感も、中国人の不動産購入に拍車をかけている。
キプロスで中国人による不動産ブームに火が付いたのは2012年8月。キプロス政府が、欧州連合(EU)域外の国籍保持者に対して、キプロスの永住権を取得できる要件を明確にしたのがきっかけだった。この中に、不動産についての規定が盛り込まれている。
キプロスの永住権を取得するには、EU域外の国籍保持者の場合、30万ユーロ(約3700万円)以上の不動産投資をする必要がある。これに加えて、自らの財務状態が良好であることを証明するため、キプロスの銀行に3万ユーロ(約370万円)を最低3年にわたって預けることに合意しなければならない。永住権の証明書は45日程度で届くという。
地中海に浮かぶキプロスは人口90万人以下の小さな国だが、EU加盟国のひとつ。これはつまり、キプロスの永住権を手にすれば、EU域内をビザなしで出入国できることを意味する。この「特権」の魅力が、中国人の富裕層を引き付けている。
2012年の調査によれば、140万人と推定されると中国の大富豪の85%は、子どもに海外の教育を受けさせたいと考え、留学させる計画を立てている。キプロスの永住権をもてば、この計画は実現可能になる。
一方で、永住権以外の目的もあるのでは、との見方もある。中国政府は現在、一人っ子政策を推進しているが、少子高齢化は、中国にとって足かせとなりかねない問題だ。中国政府が将来、海外で生まれた第2子を国民として認める可能性があるともいわれる。
さらに、中国政府が立ち行かなくなったときの「保険」の意味合いもある。海外に第2の住居を用意しておけば、社会主義政権が万が一崩れたとき、富裕層にとって格好の逃げ場となる。
EUではキプロス以外にも、第三国の投資家に対し、自国にお金を落としてもらう戦略を採る国がある。アイルランドとポルトガルも、不動産を購入した外国人に居住権を与えている。スペインも検討中だ。ただ、国によって欧州の居住権・永住権を与える条件が異なるため、EUでは今後、統一する必要が出てくるかもしれない。(今井ゆき)