「5S」でタンザニアの保健システムを改善、JICAの西村恵美子氏が講演

セミナーのようす

開発に関心をもつ在英日本人学生が運営する非営利団体「英国開発学勉強会」(IDDP)は1月26日、ロンドン大学教育研究所(IoE)で、一般公開セミナー「国際保健協力の現場から〜バヌアツとタンザニアの保健システム強化プログラム〜」を開催した。講師を務めたのは、国際協力機構(JICA)職員の西村恵美子氏ら。西村氏はタンザニアの保健システムの改善に取り組んだJICAのプロジェクトを紹介し、カギとなった「5S」の成果を強調した。

5Sとは「整理(Sort)」「整頓(Set)」「清掃(Shine)」「清潔(Standardize)」「しつけ(Sustain)」のこと。JICAは2007年から、研修や技術協力プロジェクトを通してタンザニアの病院のマネジメントを改善してきた。

最初の対象となったのはムベヤ国立病院だ。第一段階として、職場環境を向上させるために5S活動を推進。第二段階ではカイゼン活動を通じて文字通り業務内容を改善し、最終的には病院での総合的品質管理(TQM)の導入・定着を目指す。

西村氏によると、ムベヤ国立病院では5Sをベースに、患者のカルテや医療用品の棚などを整理し、職場環境の向上に大きな成果を挙げたという。

またカイゼンで取り組んだのは、かねて頭を悩ませてきた、外来患者の待ち時間が長いという問題だ。病院スタッフの分析では、その直接的な要因は、医療従事者の遅刻や長時間の会議、診察中の休憩の長さだった。

これらの要因の背景を、カイゼンの手法を使って分析したところ、「職務規定を守らない」「モニタリングの仕組みがない」「会議の議題が決められていない」など具体的な課題が浮き彫りになった。そこで、職務規定の厳守や会議のタイムマネジメント、患者の流れの見える化(番号札の導入)などの対策を実施。この結果、平均待ち時間が45分から15分へと短縮できた。

JICAが導入した5Sカイゼン活動は2008年、タンザニアの保健省がその効果を認め、普及に力を入れたことで、同国のすべての国立・州立病院と一部の県立病院に広がった。保健省はその翌年、国家ガイドラインも策定している。5S活動はいまや、タンザニアだけにとどまらず、アフリカ15カ国で展開中だ。

5Sカイゼン活動の成果について西村氏は「職場環境が向上し、仕事がやりやすくなることで、医療従事者のモチベーションがアップする。業務改善を通じてサービス向上を図ることで患者の満足度も上がる。日本型マネジメント手法を通じてアフリカの病院は変わると信じている」と胸を張る。

5Sカイゼン活動は現在、タンザニアの56の病院に普及しているが、今後は、改善効果を数値として立証することや、病院のTQMのさらなる展開、保健省に対する持続的な支援などが課題となる。

タンザニアでは、乳幼児死亡率は1000人当たり81人(12人に1人)。乳幼児の死因のトップはマラリア。HIV感染率も、15~49歳の国民の5.7%に上る。保健システムの弱さがこうした現実の背景にある。資源が限られる中、ムダを省き、サービスを改善する5Sカイゼンの意義は大きい。(ロンドン=吉田沙紀)