中国のリンゴ農家「DDTの使用やめたら収入が12%増えた」、UNDPの環境配慮プロジェクト

国連開発計画(UNDP)は2008年から、中国環境保護部と合同で、山西省などで農家に農業技術を教え、農作物を栽培する際に使うDDTなど殺虫剤の使用を軽減する4年間のプロジェクトを開始した。全体予算は2040万ドル(約19億円)。そのうち、地球環境ファシリティ(GEF)から600万ドル(約5億6000万円)の支援を受け、「環境や人体に悪影響を与える農薬」の使用を控えるよう指導。その中のひとつがDDTだ。

DDTとは、有機塩素系の農薬。安価だが強力な殺虫効果があるため、戦後の日本でも、児童の頭髪からシラミを除去する薬として使用されていた。しかしDDTは環境に長くとどまり、食物連鎖を通じて生体濃縮するため、01年にストックホルム条約で残留性有機汚染物質として認定された。レイチェル・カーソンの本「沈黙の春」で一躍有名になった危険性のある物質でもある。

UNDPのプロジェクトは12年に終了したが、合わせて10万人の果樹農家が参加した。その中のひとり、山西省のダンさん(70歳)の夢は、孫を大学へ進学させることだった。しかし、このプロジェクトにかかわるまで、それは不可能な夢だった。標高1100メートルの高地でリンゴ園を経営するダンさんの収入は、リンゴの出荷価格で1キログラムあたり30セント(約30円)を超えることはなかったからだ。

山西省の土壌は果樹の生産に適しているが、半乾燥モンスーン気候のためリンゴの葉に虫がつきやすい。かつてダンさんは、殺虫剤としてDDTを大量に散布しながらリンゴを育てていた。

こうした農薬の大量散布に代えて、UNDPの農業専門家は、生産性向上に効果のある生物的防除の知識を農家に与えた。そして、研修を受けた農民たちは、自らが率先して近所の農家に農業技術を教えるようになった。

新しい農業技術はすぐに効果が現れた。合わせて300平方キロメートル近くのリンゴ園で年間70万トンにも達するリンゴが収穫できるようになったのだ(ちなみに日本全体のリンゴ収穫量は、農家の高齢化、樹木の老朽化などにより減少傾向で、年間約66万トン。11年農林水産省調査)。

農業技術だけでなく、国際的な取引も可能な農作物栽培基準についての知識も与えた。その結果、このプロジェクトのもとで生産された果樹は生産性が向上し、「安全な作物」として欧州に輸出されるまでになった。

今、欧州にリンゴを出荷する準備にダンさんは忙しい。価格は、1キログラムあたり90セント(約90円)で販売できるようになった。ダンさんの収入も12年と比較して、1ヘクタールあたり12%上昇。孫を大学に進学させられるようになる日も近い。(今井ゆき)